9日目

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9日目

昨日に引き続き、今日も四人でお昼を食べることになった。徳人がアホみたいにずっと喋るおかげで話題には困らなかったし、何より染川さんと宮下さんがどういう人なのか分かる情報がいくつか出てくる。話し上手ってこういう感じなんだろう。 「じゃあ二人は習い事で通ってたピアノ教室で知り合ったんだ〜へぇ〜! 意識高ぇ〜」 「まぁ私はそのピアノ教室一ヶ月で辞めたんだけどね」 「……一ヶ月でだいたい引けるようになったしね」 染川さんはともかく、宮下さんがピアノを弾けるのは意外だった。今も続けてるらしい。 「ユキちゃんってばだいたいなんでも出来んだねー。習い事も色々やってたみたいじゃん?」 「ママがやれって言うからやってたの。でも全部途中で飽きちゃった」 「あれ酷かったよね、書道。三日でやめてた」 「文字書けたからいいかなーって思って」 染川さんは極度の飽き性のようだ。沢山習い事をしてたみたいだけど、大体短期間で辞めてるみたい。それだけやらせてくれる親も凄いけど。いや、今の言い方的にやらされてたって感じではある。どっちにしろ習い事なんかやったことない俺からすれば、たくさん習い事が出来るなんてちょっと羨ましい。 「フーン。一番続いたので何だったの?」 徳人が何気なく聞いた質問に、染川さんは少しどもった。 「あ……えっと、絵画教室かな。一番最初の習い事だったんだけど、三ヶ月くらいやったかな」 「一番最初で絵画ってなんか芸術家っぽいね! なんで辞めちゃったの? 絵描けたから?」 染川さんは少し冴えない表情をしているように見えた。宮下さんが何もつっこまないどころか、興味ありそうに様子を伺ってることから、宮下さんも初めて聞く話なのかもしれない。もしかしてあんまり言いたくないのかな? 「水泳教室はやらなかったの? この前水苦手って言ってたよね」 「水泳もやったよ! 別に泳ぐことは出来たんだけど、潜ってるあいだ呼吸出来ないのが嫌だったから一週間で辞めちゃった」 「魚じゃないんだから当たり前でしょ」 「えぇ、私が息したい時にしたいもん……」 適当に違う話題を投げたら何事も無かったように話が進んだ。余計なお世話だったかもしれないけど、話題が逸れて俺は内心ほっとした。ただださえ徳人が図々しく色々質問してるんだし、この位は気をつかった方がいいだろう。 「そんだけ色々習い事してるって、ユキちゃんもしかして良いとこのお嬢様?」 徳人がまた遠慮無しにズケズケ聞いてくる。 「当たり前じゃん。ユキんちはお母さんが社長さんなんだから」 「えぇっ?!」 思わず徳人と声を揃えて驚いてしまった。 「しゃ、社長令嬢?! ちょっとユキちゃん、付き合う相手は選んだ方がいいよ〜」 「どういう意味だよそれ!」 「いや俺はお前のため思って。一般ピープルのとーまが辛い思いをしなくていいようにだな」 「余計なお世話だよ!」 でも実際相手はよく選んだ方がいい。まあ今は暇つぶしのお相手程度のお付き合いだろうからカップルなんて名ばかりだし。これもお嬢様の庶民的な遊びの一環なのかもしれない。 「そんな言うほどお嬢様じゃないよ。お城とかに住んでないし、メイドさんとかもいるわけじゃないから」 「いやお城住んでなくても社長令嬢はお嬢様じゃねー?」 全くだ。まあどの規模の会社の社長かにもよるけど、そんな家庭の事情にとやかく首突っ込むほどのことでもないしな。 もしかして、面白いことが無いとか退屈とかって、そういう事情が含まれてるのかな? 幼少期に色々体験しすぎて飽きたとか? だとしたら、庶民代表として庶民的な事を教えてあげた方が効果的なのかもしれない。写真映えスポットを探すと別に、庶民的な遊びについて調べるも課題として追加されたお昼だった。
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