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『試作品が出来たからもう一度見に来て欲しい』と茜に言われたのは翌週。
莉子は二つ返事で行くことを約束した。
前の日、莉子は念入りに爪を磨く。
派手な化粧やお洒落はしないけど、だからといって何もしないのは嫌だから。
大切なのは内面なのはわかっているけど、それでも佐山の中に少しでもいい印象を残したかった。
綺麗に切りそろえられた爪にヤスリをかけてじっくりと磨いていると、その間は佐山の事だけを考える時間になる。
もちろんそれ以外の時もしょっちゅう考えてはいるけれど、それでも佐山の事だけをずっと考えていられるわけではない。
だけど爪を磨く時は佐山の事だけを考えることができるので、莉子の好きな時間なのだ。
つやつやと輝く爪を眺めながら満足げに目を細めると、手を洗ってからクリームを塗る。
普段からこまめにクリームを塗って手入れしているとはいえ、荒れ一つない莉子の手は苦労など微塵も知らない事を物語っている。
自分の手を眺めながら佐山のゴツゴツとした手を思い出す。
節くれだって少しカサカサしているけど厚みがあって、それがなんとなく優しさの表れのようで莉子は好きだった。
だけど簡単に触れることはできない……。
「はぁ……、早く会いたいな……。」
莉子は早く寝たからと言って速く会えるわけではないということはわかっているけど、それでも早く会いたくていつもより早くベッドにもぐり込んだ。
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