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『今日のノブさんも素敵だったなー。』
湯船に浸かりながら莉子はひとり今日の思い出に浸っていた。
『だけど本当にあんなに言いたいこと言って良かったのかな。』
旦那さんは若い子の率直な意見が聞きたいと言うし、佐山もその方がありがたいと言ってくれる。
だけど、莉子の好きなものと佐山が作りたいものは違うような気がしている。
それは今まで何度かイベントを手伝うことで感じていた事。
莉子は和菓子に関してはド素人だから、余計に申し訳なく思ってしまう。
『ノブさん、また遅くまで仕事してるのかな。』
新しいお菓子を開発するときはいつも遅くまで残って仕事をしていると以前茜に聞いたことがあって、ふとそれを思い出したのだ。
佐山が今も仕事しているかもしれないのに自分はのんびりとお風呂に入っている事に、また申し訳なく思った。
お風呂から出ると、莉子は冷蔵庫から箱を取り出した。
お盆に小皿2枚とフォークを2本を乗せてリビングのんびりとテーブルに運ぶ。
小皿とフォークをリビングでテレビを見ていた母の前に置くと、
「ママ、お菓子食べよ。」
と声をかけた。
茜の家で貰った和菓子が入った箱をテーブルの上で開けると、母が覗き込んできた。
莉子は子供みたいに箱を覗く母を時々可愛らしいと思ってしまう。
大好きな水まんじゅうをお皿に乗せて、大切そうに切ってからゆっくり口に運ぶと、
「んー!!!
茜ちゃんちのお菓子はいつも美味しいね。」
と、子供みたいに満面の笑みで言った。
「今度の新商品はどんな感じ?」
母は茜の家の和菓子のファンで、いつも莉子が貰ってくるお菓子を一緒に食べながら新商品の話や、今日話した事などを聞いてくる。
今日も莉子が新商品の水ようかんに意見を述べた事が良かったのかどうか迷っていると話すと、
「莉子の話を聞く限りではそのノブさん?は仕事熱心で妥協を好まなさそうだから、より良い商品開発の為の意見は例え自分と考えが違うとしてもそれが嫌とか怒ったりとかはしないんじゃないかな。
莉子考えがふざけ半分で言ったりバカにした様な言い方をしたわけじゃなくて、真剣に考えて言ったのならそれはあちらにとってもありがたいことだと思うわよ。」
一人で悩んでいた時にも同じような考えが浮かんだけど、母に言われるとそれから正しいと思えてきて莉子は安心した。
「莉子のそういう真面目なところ、ママは好きよ。」
明るくておちゃらけたキャラの莉子を真面目だと言う人はあまりいない。
だけど母は自分の事を理解してくれていると思うと嬉しくて、
「うん。」
と言うと、恥ずかしさに立ち上がって、
「ごちそうさまでした。
私はお店で色々食べさせてもらったから、あとはママ食べちゃって。」
そう言うと食器を流しに置いて、
「おやすみなさい。」
と自分の部屋に引き上げた。
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