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「あ、いえ、本当に何でもないんです」
まさか佐山の事が好きなのに下村が自分を好きだったなんて佐山に相談するわけにもいかずに小さく答える。
「そっか
俺の気のせいだったかな?」
「寝不足だったからそう見えたのかも」
「寝不足?
どうしたの?」
「昨日なんか寝付けなくて……」
これは嘘ではない。
下村に言われた事は莉子にとって予想以上にショックな事で、それを考えると眠れなかったのだ。
「やっぱりなんかあったんだね
でも大人なお兄さんは無理やり聞き出したりしないから安心して」
わざとふざけて佐山が言った。
「自分で大人なお兄さんって……」
莉子はそんな子供っぽい一面を見せる佐山が可愛く感じられてクスリと笑った。
「ノブさんはどんなタイプの人が好きですか?」
莉子は話をそらしたかったのと、純粋に気になっていた事で突然そんな質問をした。
「んー、タイプっていうのがあるわけじゃないんだけど、今好きな人は元気で明るい子、かな
だけど周りへの気配りもできて、気が利いて、それから気が強そうなんだけど、実はか弱い感じな子。
莉子は藍を思い浮かべて納得して、ノブがはっきりと「今好きな子」と言ったことにショックを受けた。
「へぇー
今度その人が近くにいたらこっそり教えてください
ノブさんの好きな人、見てみたい」
莉子の言葉に佐山は少し残念そうに微笑む。
「それはまだ秘密だよ
そのうちに教えてあげるから」
「うん」
莉子は正直藍と佐山が仲良く幸せそうに並ぶところなど見たくなくて、なんであんなこと言っちゃったんだろうと後悔しながらもそう返事した。
当たり障りのない会話を続けてから暇の挨拶をして店を出ると、まず最初に、
『私、上手く笑えてたかな』
と心配になる。
『ノブさんの幸せ、祝福しなきゃいけないのに』
藍は佐山を好きだということは間違いなさそうだ。
つまりは相思相愛。
莉子の心の中では、佐山にとってこれ以上ない幸せを『祝わなくちゃ』、と思う気持ちと、『私のところに来てはくれないだろうか』という素直な気持ちが喧嘩していた。
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