飴細工は好きですか?

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莉子はやっぱり佐山の隣にいたくて、その後も何かにつけて高橋菓子店へ通っていた。 お陰で佐山とは以前よりも話が弾むようになったし、佐山も莉子に以前よりも心を開いてくれていると感じている。 だけど二人の関係はそこまでで、それ以上にはならなかった。 前からわかっていたことなのにこの現実を考えると莉子は切なくなる。 そんな中、ついにお正月。 2日、3日のイベントの日がやってきた。 朝店に行くと、まずは新年の挨拶をする。 この日ばかりは店の座敷に正座して旦那さんから挨拶がある。 それから心付けを一人ひとりに渡してくれて、その後でイベントの準備が始まった。 店の前の駐車場にはテントが張ってあって、その下に臼を置く。 餅つきのイベントは11時からと午後3時からの2回。 飴細工は10時からと2時からで、各回基本的にお菓子をお買い上げのお客様先着10名ということになっていた。 最初はうさぎだけの予定だったけど、鶴は縁起もいいし色も付けないでできるということでつるとうさぎの2種類になった。 旦那さんと佐山は大きならものから運んで、莉子や茜、藍が細々とした準備を進める。 みんな何度もやっていることもあって、誰に聞くともなくそれぞれが自分の仕事を見つけてテキパキと動いていた。 奥さんは奥で餅つき用のもち米をふかしていて店の方は藍に任せている。 藍は普段は実家から離れて暮らしているけど、いずれ菓子店をつぐつもりでいるだけに、旦那さんや奥さんから見たら頼もしいに違いないだろう。 それだけ考えると莉子と藍で佐山を取り合いになったら間違いなく勝ち目はないと思って気持ちが沈んだ。 それでも仕事は仕事、と敢えて余計な事を考えないようにして莉子は一生懸命働いた。 開店前、店の前には先着30名に配られる鶴乃子餅を新しく正月用に開発したものを目当てに行列ができていた。 開店までまだ30以上あるので店は開けないにしても、寒い中並んでくれているお客様に少しでも寒さを紛らわしてもらおうと、甘酒とコーヒーを配り始める。 奥さん特製の甘酒は毎年美味しいと評判で、店の先にある神明宮に初詣に行く人がそれ目当てに並んだりするのだ。 藍と莉子で甘酒とコーヒーを配っていると、小さな子供が目に入った。 莉子は藍に目配せしてその場を離れると、紙コップに温かい麦茶を入れたものをいくつか持って来て、子供連れのお客様に声をかけていった。 店が開くと客が一気に店内になだれ込んで来て、一時騒然とする。 それぞれ別の仕事をしていたスタッフが店内に集まって一つ一つ対応していく。 今年は2日3日は正月限定の和菓子数種類と団子のみの販売にしたので、そういう意味での混乱は避けられている。 それでもレジに並ぶ人、ショーケースを眺める人、店内の椅子で休む人、甘酒を求める人でそれこそお祭り騒ぎだった。
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