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餅つきが始まると、一時店内は静かになる。
外の餅つきの方に人が集まるから。
それでもいつお菓子を求めるお客が来てもいいように、常に二人は店内に残っている。
莉子はカウンターの中から小さな子の後ろから一緒に杵を振る佐山を眺めていた。
『きっといいパパになるんだろうな……』
さっきの女の子への対応といい、今の様子といい、子供への優しさはただ仕事だからというだけではないように感じていた。
でも、その時隣にいるのは?
そう考えると切なくなる。
「いいパパになりそうだよね」
莉子は心の声が漏れてしまったかと思わず口を押さえたけど、そう言ったのは隣に立つ藍で、莉子と同じように佐山をじっと見ていた。
声を聞くだけで、藍が楽しそうなのがわかる。
それだけに藍の顔を見ることができずに、ぼぅっと佐山の姿を目で追っていた。
「私ね、ノブさんが好きなの。
大学卒業したらこっちに戻ってきてどこかの企業に就職するつもりなんだ。
ノブさんが私を受け入れてくれたらいづれ2人でこのお店やっていきたいと思ってるんだ」
莉子はなんと答えていいかわからずに目を泳がせた。
「突然ごめんね
今日は1月2日でしょ?
何でも事始めは2日以降だから、私の決心を誰かに聞いて欲しかったの
それに口にすると叶いそうな気がして」
莉子が藍を見ようと顔を向けた時、外から、
「わぁ」
という声が聞こえてそちらに目をやる。
どうやら外で子供が転んでしまったらしい。
その時に奥さんが使う手水を乗せたすのこを蹴って水が入ったボウルがひっくり返ったようだ。
「あらら」
そう言いながら藍が素早く外へ出ていった。
残された莉子はひとり、
『最初からわかってたじゃん
何期待してんの?』
と、心の中で自分に嘲笑を含めた言葉を投げかけた。
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