飴細工は好きですか?

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2日間のイベントを終えて、莉子は高橋菓子店のみんなに挨拶をしてから店を出た。 イベントの間に佐山に近づこうという作戦は藍の告白でもろくも崩れた。 もちろん藍が佐山を好きだから佐山も藍を好きかというと、そうではない。 それでも2日間、何かにつけて佐山の世話をする藍を見ていると、『お似合いだな』と思えてきて、佐山は藍と付き合うのが一番いいのもしれない、と考えていた。 佐山が誰を選ぶかは佐山が決めることで周りがどうこういう問題ではないけれど、きっと相手は自分ではない。 莉子は深くため息をつく。 疲れで体は重く、身も心もボロボロ。 いつもの倍くらい遅いスピードでとぼとぼと歩いていると、後ろから声をかけられた。 「よかった、間に合った」 息を切らした佐山が言った。 「ノブさん……私、何か忘れ物しました?」 莉子は身の回りのものがちゃんとあるかを確認して自分の体を見回した。 「違う、そうじゃなくて…… これ、渡そうと思ったんだけどなかなか抜け出せなくて」 そう言って差し出したのは飴細工。 でもその飴細工がイベントで配ったものとは違うことは一目でわかった。 赤いリボンを耳に付けたデフォルメされたうさぎと、もう一つは黒い蝶ネクタイを首にしたうさぎ。 「可愛い……」 それを見ると疲れもふき飛んで、すぐに飴細工に飛びつく。 「あの、莉子ちゃん、俺さ……」 佐山がいいかけた時、莉子の頬に涙が落ちる。 「え? 莉子ちゃん? どうした?」 慌てる佐山をよそに、莉子の涙はとめどなく溢れてついに莉子は顔を覆った。 「ごめんなさい」 なんとか涙を止めようと思うけど、今までの佐山との思い出が浮かんできてなかなか思うようにいかない。 それでも無理やり歯を食いしばって涙を止めると、 「ありがとうございます これでいい思い出ができました」 と、お辞儀の見本のように深く頭を下げてからくるりと体を翻して帰っていった。 佐山は心配そうな顔で何かを言いたそうにしていたけど、なんとなく声をかけてはいけないと莉子の後ろ姿が言っているように思えて、ただただ莉子の背中を見送った。
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