16 男神と女神の……/アイドルっぽいラブゲーム

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16 男神と女神の……/アイドルっぽいラブゲーム

***  埼京線南与野駅。  昔の駅の周辺は田圃。田圃のなかにぽつんと高架駅ができた。田圃のなかの駅。  埼京線は渋谷、新宿、池袋などの東京都の副都心と、埼玉県の新都心を結ぶ。建設当時の地下線予定が、地盤問題で高架線となる。  今の駅の周辺は整備が行われ、地盤問題対策もなく、商業施設、マンションの建設工事が進んでる。唯一、高架線の下に河童の森という整備を免れた小さな森があった。しかし河童の森も避難場として整備が行われ、キャプテン翼スタジアムが造られる。  護ってくれた古代の田の神、森の神は逐われ、住んでた神社は壊され、マンションが建ち、人が住む。現代の埼玉県は日本列島で最も人口増加が著しい。たくさんの人が住む。 *    南与野駅から徒歩10分の住宅街に、土合古墳群のひとつ、日向古墳がある。  墳頂に、鮮やかなラメつきフリフリステージ衣装のアイドルっぽいイヅメと、白い神衣の山伏っぽいタヂカラヲが立つ。狭く、根で足場が悪い。イヅメの頭槌の剣と、タヂカラヲの錫杖のような鉾でたがい体を支え、寄り添うように立つ。 「もうちょっと離れてよ、タッちゃん。そんなイヅメとくっつきたいの」 「…………」 「ダメよォ、ダメダメ。イヅメはァ、オモヒカネさまのオキニだからァ」 「…………」 「どうしてもォくっつきたいってタッちゃんがいうならァ、ちょっとだけだぞ。きゃ」 「…………」 「ねえ、タッちゃんは無口なの、歌を忘れたカナリアなの」 「…………」 「山に捨てるよ、鞭でしばくよ」 「…………」 「もう、タッちゃんのキャラの設定、小説に向かないよ」 「……スサノヲが離れる」 「喋れるじゃん。ちょっとちょっと、チャンスじゃん。殺(ヤ)れるじゃん。タッちゃん、いつもの殺ったげて」 「……イヅメがやればいい」 「おいッ、やらんのかい」 「…………」 「ツッこんでよッ、おねがいだからツッこんでよ」 「…………」 「タッちゃん、なんのためにここにいるの」  タヂカラヲは嘲う。そして見あげる。 「ちょっと、タッちゃ……ん。消えちゃった。もう、なんなのー。ちょっとだけ、オモヒカネさまのオキニだからって、偉そうに。プンプンだよ」  曇天を見あげる。頭槌の剣を掲げる。 「オモヒカネさまのオキニはイヅメだけ。……オジャマ虫は、潰すからね」
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