19 おかしいな、セッちゃん。/さびしいな。

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19 おかしいな、セッちゃん。/さびしいな。

*  頭上の欅で鳥が囀ってる。キューピーちゃんが鳥と戯れてる。  ワカヒコくんの横顔を見る。チョーコドモだ。チョー年上に見えない。 「ワカヒコくんは中ツ国を譲ってもらうため、オオクニヌシさんの処に来たんだよね」 「ウン。ソーだよ」 「どうして、国ツ神になったの。父さんがいるんだよね」 「……ウン」 「ワカヒコくんの父さんは高位神と聞いたけれど……」 「…………」  ワカヒコくんは俯いて黙ってしまう。 「……ごめん」  私はワカヒコくんの髪を撫でる。 「ごめん、もう、聞かない」 「……昔のツクヨミさまに聞いた」 「ワカヒコくん……」 「中ツ国に降りたとき。ツクヨミさまと初めて遇ったとき。天ツ神で、三貴神という最高位神で、なんで中ツ国に降りたのか。なんで国ツ神とともに天ツ神と戦うのかって」  ワカヒコくんの口調が違う。 「罪と、罰だって。だから天ツ神と戦わなければならなくなった、だって」  撫でる指が震える。  罪と、罰。  天ツ神と戦わなければならなくなった。 「わからなかった。なんで天ツ神は国ツ神の国を奪うのか。なんでボクが降りなければならないのか。なんで父神はなにも教えてくれないのか。なにもできないボクが、なにもわからないボクが、なんで……」  オトナ(権力者)の事情で命じられた。 「ツクヨミさまは、ボクがひとり悩んでもなにもわからないって。わかるまで、ともに居ようって。わかるため、ともに戦おうって。ボクが見たものを信じ、聞いたことを信じ、ボクを信じる。信じていれば、いつかわかるって。だから……」 「ちょ、ちょっと、……ワカヒコくん、待って」  物語の展開が良くないよ。ワカヒコくんの設定が良くないよ。  トミビコさんは神話どおり、現実でニギハヤヒに殺された。  物語の展開も、設定も、いまだ神話(神代)から現実(現代)へと続いてる。 「もう、いいよ」  私はワカヒコくんの口を塞ぎ、言葉を制する。  頭上の鳥が葉を散らして飛ぶ。ヘンな囀。ワカヒコくんを抱きしめる。  呪咀のような、ヘンな歌が聞こえる。 「「「……シヤシコヤ。アーシヤコシヤ。エーシヤシコヤ……」」」  シリアスな物語の展開に、また、ふざけた設定のニューキャラ。 「「「……シヤコシヤ。エーシヤシコヤ。アーシヤコシヤ……」」」  緑色の神衣を纏う、同じ顔の三男神が歌いながら歩いてくる。  鎖鎌のような剣を持ち、鎖を回しながら歩いてくる。しかも現世(ウツシヨ)に。公園に居る人々が騒めく。  まずい。品物比礼(クサグサノモノノヒレ)も、剣も持ってない。神棚だ。 「ツーちゃん」  ワカヒコくんが私のパーカーの袖を握る。立ちあがり、調神社へ後ずさる。  まずい。ボディガードのスサノヲさんも居ない。あたりまえだけど。 「ワカヒコくん、まずは隠れよう」走る。 「わかりにくい公園ね」人々を避け、木々を抜け、走る。 「ツーちゃん、コッチ、コッチ」  私達は神社の境内に入り、隠世(カクシヨ)に隠れる。追ってきた三男神も入り、隠される。とりあえず現世の人々を救えたけれど、どうすればいい。  三男神が参道を塞ぐ。たぶんイヅメに仕えるクメ水軍の三組頭のひとつ。 「カカカ。ぼくはウワノヲ」 「ククク。ぼくはナカノヲ」 「ケケケ。ぼくはソコノヲ」 「「「カクケカクケ。ぼくらはアマノクメ組ツツノヲ三男神」」」  三男神がハモる。やはり。  だけど。鎖を回すには境内が狭すぎる。鎖を飛ばすには木々が多すぎる。  だから。剣を構えて攻撃を倦んでる。ワタツメ三女神と違って連携攻撃ができない。 『できると思い、できる方法を考えれば、できる。さ、さきに思うことが大事だ』  クエビコさんの言うとおり。私はできる。できる方法を考える、考える。 「「「カクケカクケ。エーシヤシコヤ。アーシヤコシヤ」」」 「「「カクケカクケ。ミツミツシ、クメの子が撃ちてし止まむ」」」  参道を歩いてくる。間を詰めてくる。後ずさる。考えろ。考えろ。  攻撃は歌で合わせてる。剣技は拙いので脅してる。  横の公園も、広場のほかは木々が多い。鎖は飛ばせない。別々に動いて惑わせばいい。隙をみて逃げればいい。 「ワカヒコく……」 「ツーちゃん、ボクが囮になる。逃げてッ」  ワカヒコくんが三男神に突っこむ。二男神ならば、間を抜けたかもしれない。鎖を回せる広い処ならば、鎖がぶつからないように間をとってたかもしれない。  だけど。ワカヒコくんは参道に並ぶ三男神の、神名はわからないけれど、中央の、剣を構える男神に突っこむ。 「ワカヒコくん、ダメッ」  私はワカヒコくんを追う。  私はワカヒコくんに覆いかぶさる。  私は中央の男神が振りおした剣を背に受ける。勢い、男神にぶつかる。  私はワカヒコくんを抱えながら転がるように倒れる。三男神を抜ける。  背が焼けるように痛い。痛い。とても痛い。  私はアスファルトの道路を滑る。受けたままの剣が地面に押し付けられる。  私はさらに勢い、なにかに頭をぶつける。壁か。血が目に入り、空が赤くなる。  頭上でフヨフヨと浮いてるキューピーちゃんが見える。 「た、助けて、キューピーちゃ……」  私は、死ぬ。  やっと物語が始まったのに、ブラックアウト。
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