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03 月神のムー(ン)な話/月の神の哀しい話
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もうひとつ、わからないことがある。
「なんでツクヨミを祀る神社は少ないの」
国ツ神とともに天ツ神と戦った、生まれ変わる前のツクヨミ。そして国ツ神とともに天ツ神と戦う、生まれ変わったあとの私。戦うと決めたといえ、敵は天下の天ツ神。一生懸命に戦ってる。がんばってる。ツクヨミも私も。なのに祀ってくれない。褒めてほしい。ツクヨミはわからないけれど、私は褒められて伸びるタイプ。
和歌山県はオオクニヌシさんがわざと祀らなかったけれど、ツクヨミ、または月神を祀る神社は和歌山県だけでなく、全国で少ない。気になって調べたけれど、わからない。
三貴神で、日神を祀る神社は約13500社、スサノヲさんを祀る神社も約13500社。月神を祀る神社は約700社。めちゃ少ない。
「本宮本社がない。月神の本貫の神社がない。なんでないの」
「い、色々な所以が、重なった。ひとつ。十五夜など、決まった月齢の月光を浴び、あ、悪霊を祓う月待信仰。月に係る信仰やならわしは、お、多い」
昔の月見は、ぼんやりと月を眺めてた。眩しすぎる日光と違う、優しい月光でリラックス。日とともに働いた、がんばった心と体のリセット。リフレッシュ。ずばり月の力で悪霊(ストレス)を祓った。
1872年、明治政府により太陰太陽暦(旧暦)は太陽暦(新暦)に変わった。太陰太陽暦月は1月を太陰(月)の朔望に合わせ、1年を太陽の二至二分に合わせた優れた暦法。かつて自然のリズムと生活のリズムを合わせた太陰太陽暦(旧暦)を使った。
「し、しかし月を見ることは、いつしか、い、忌むようになった」
月見を忌むようになったのは、古代中国の影響。白氏文集。月光のなかで昔を懐かしむと容貌が衰え、寿命が縮む。白氏文集の影響で竹取物語も月見を忌む。
憑き。moony。lunatic。
月光はヒトの松果体に、心と体に影響を与えるのか。
地球に影響を与える月の力は、潮汐は海洋と海洋生物に影響を与えてる。概月リズム。
では、月の力はヒトに影響を与えてるのか。
科学的実証はないけれど、与えてない。与えても、ほんと微力。女性の月経周期(約28日)は月の朔望周期(約29.5日)の影響というけれど、ヒトよりも野生に近い哺乳綱霊長目(サル目)ヒト科ヒト族のチンパンジーの月経周期は34〜35日で、月の朔望周期と合ってない。だいたい、朔望に合わせてヒトの月経は起きてない。
朔望に合わせた事件事故、出生死亡の増減も科学的実証はない。
「ふ、ふたつ。まえも話したが、社(ヤシロ)は、農耕、稲作の時代にできたムラ社会の集会場だ。と、当然、祀られるのは田畑の、護り神。つまり日神」
神社は村(ムラ社会)の祭祀場であり、村長が村をまとめる集会場。ボスザル。農耕を営むための日神に日乞い、雨乞いの祭祀。収穫の分配。来月、来年のスケジュール。ムラ社会が血縁関係ならば祖神(屋敷神)、地縁関係ならば地主神を合わせて祀る。月神を祀るスペースはない。だいたいの村は権力のある村長の血縁で、地縁の村も婚姻で血縁でまとまる。ボスザルに順わなければ、ムラ社会を出なければならない。
武力のある村長は、さらに力を蓄える。田畑を広げるため、耕す人を増やすために隣村を襲う。強引な婚姻で血縁でまとめる。隣村の祖神は幽世に去るか、ボスザルの祖神の随神になるか、ボスザルの祖神を祭神にするか。
「つ、月神は祀らなくて、いい」
月神信仰の狩猟を営む山人族、漁撈を営む海人族。むらがる村(定住の地)を作らない。人はむらがらない。人が増えたら別れる。獲れた獲物に合わせて移り住む。崇める神は獲物を恵む山神、海神。そして人や獣の夜を見まもり、魚貝の生育を見まもる月神。祀る神社は作らない。目の前に神様は居るから、見あげれば神様は居るから。
「み、みっつ。社は、大きなムラ社会、つまり、く、国が預かってる」
祭(マツリゴト)は、つねに政(マツリゴト)とともに権力者の下にあった。畿内の王権や政権から、鎌倉幕府、室町幕府、江戸幕府、明治政府、戦前戦中の政府まで。
戦後、GHQにより祭政分離となったけれど、全国神社の99%をまとめる宗教法人神社本庁は、いまだ高天原の日神を祀る。いまだ神宮(伊勢神宮)を総本社とする。いまだ全国の神様を、全国の神社を順わせる。いまだ政府と関わってる。
「つ、月神を祀る神社は、要らない」
3市が話しあい、さいたま市にまとまるまでに74年もかかった。明治政府の神社合祀は8年で全国の20万社を14万社にまとめた。
たくさんの神様は幽世に去ったり、日神の随神になったり。日神を祭神にしたり。
「ゆ、ゆえに月神を祀る社は、少ない。あ、あと、星神対策に忙しかったと、考える」
「なんで星神が関わるの」
「ツーちゃん、話がチョーつまらない、チョーチョーつまらないよ」
「終わる。もうちょっとで話は終わる」目の前に出してくる、むくれ顔を手で避ける。
*
星神を祀る神社はあるけれど、神話で月神も、星神も出ない。
星宮神社の祭神はカガセヲ。カガセヲは天ツ神なのに、服(マツラ)わない神様。ワカフツヌシさんやワカヒコくんと同じく元・天ツ神。
高天原を逐われ、常陸国の大甕山に降り、東国を治めた。星宮神社は関東地方、とくに茨城県と栃木県に多い。高天原の地上説に宮崎県(日向国)と、もうひとつ。茨城県(常陸国)。
常陸国は日が昇る国、日高見国と呼ばれた。かつて大和国も日高見国と呼ばれた。天ツ神の平らげるべき国は日向国の東方の大和国。さらに東方の常陸国。東へ天ツ軍は征討を進める。日を追うように、日神を求めるように。
「あ、天ツ神は服わぬ星神を怖れた。崇める一族は、と、東国へ、逐われた」
「日神のいる東の彼方に、東国に、服わない星神カガセヲがいる。カガセヲを討つための……」
「ツーちゃん、ツーちゃん」
茶色の髪を振り乱す。気づくと、すっかりと日は西の彼方に沈んでた。
暗いへやでカカシと話す女子大生が中学生の叫び声で気づく。
「もうちょっと、もうちょっとで話を終える。クエビコさん、続けて」
電灯もつけず、マジックでへのへのもへじと書かれた布の頭を見やる。
「チョーつまらないと、ボクは悲しくなる」暗いへやで潤んだ目で見つめる。
「悲しくなっていいから」暗いへやで冷たくあざわらう。
「チョーつまらないと、読者は読まなくなる」暗いへやで潤んだ目で見つめる。
読まなくな……る、のはまずい。
「話を終えた。きっぱりと終えた」暗いへやで優しくほほえむ。
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