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08 チョーチョーチョー/時の権力者のイベント
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皇統譲位のニュース。
元号の起源は古代中国に始まる。
日本国の元号は大化に始まる。元号は四書五経などの古代中国の大説の引用。平成も、史記と書経の引用。
「元号も変わるんだね」
「そ、そうだ」
キリストの誕生で始まった無限の西暦と違い、和暦は有限。つまり代始改元、吉事の祥瑞改元、噴火や地震などの凶事の災異改元で新たな元号に変わる。リセット。
元号は、中国で廃れたけれど、日本国でいまだ続いてる。言霊信仰。言葉に憑る神威。
元号も暦法も時の権力者が決める。空間だけでなく時間までも治める時空間統治。
明治維新後も大日本帝国憲法(明治憲法)のもと、明治、大正、昭和までの元号は天皇が決め、発した。改元は天皇が行うビックイベント。
1979年の元号法で、元号は政府が決め、発する。平成からの元号は時の権力者の内閣総理大臣が行うビックベント。
1989年1月7日。ひとりの時の権力者が領(ウシ)はくイベントが行われた。
内閣総理大臣が政(マツリゴト)も、祭(マツリゴト)も統べ治める。
神話で、オオクニヌシさんは領(ウシ)はく統治を行なった、とある。
ゆえに天ツ神に中ツ国を譲るべき。中ツ国は天ツ神が統べ治めるべき、とある。
「しょ、昭和最後の、時の権力者は、イ、イヅモの出だ。笑える」
古の戦で国ツ軍西の軍の本陣があった処に三屋神社や須佐神社が建つ。近所に酒蔵を営む時の権力者の本家がある。
「スサの社か。そういえば酒樽を供えてくれた。兄神と酒杯を交わした。楽しかった」
スサノヲさんが傍に置いた酒瓶を眺めながら、独り言ちる。あきらかに現実逃避。
黒色の神衣(へや着)。神代から現代まで、ずっと黒色の神衣。外出時も、黒色の神衣(そと着)。バケトロンでできてるらしい。
タイムトラベラーの約束事。もっと現代人に合わせた服を、もっと人目に合わせた服を着てほしい。
平成最後の時の権力者は、明治維新の精神的指導者の吉田松陰を敬う。
元号法制定を目的に作られた日本会議の国会議員懇談会の特別顧問。改元は、日本国憲法に従う象徴天皇と、憲法改正に挑む時の権力者を知らしめるイベントとなる。
「なんかくだらない」
1872年に明治政府は初代神武天皇の代始改元(神武紀元)として皇暦の使用を決めた。元年は西暦(キリスト紀元)前660年。西暦2018年は皇暦2678年。第二次世界大戦前まで、外国と公用文書は皇暦を使ってた。
「なんかとてもくだらない」
*
世界の変化でツクヨミとともに現世(ウツシヨ)に現れたオオクニヌシさんは、出雲国(島根県)をタカヒメに任せ、ずっと私を護ってる。
「オオクニヌシさんが居ないと、島根は、ずっと神無月だね」
神無月は、旧暦10月の異称だけれど、なぜか新暦10月の異称として用いられる。
「ツクヨミさま、違います」眼鏡のブリッジを押さえ、クイと上げる。
じつは神は当字。カミナ(カンナ)月の語源は諸説がある。新穀で新酒を醸す醸成(カミナシ)月、新嘗祭の支度を整える神嘗(カンナメ)月。雷のない雷無(カミナシ)月。
オオクニヌシさんの許に全国の神様が集まるため、出雲国は神在月。ほかの国は神無月は俗説。語源俗解。
諏訪国も神在月という。ミナカタヌシさんは、ミカヅチヲに負けて諏訪大社に鎮められ、出られないらしい。集まれないらしい。
「ワタクシの許に集まれなんて、そんな傲慢な戯言は言いません」心外らしい。
オオクニヌシさんと初めて遇ったとき、トキめいた。眼鏡好男子と(心のなかで)叫んだり、貰った手ぬぐいを嗅いだり、枕の下に置いたり。
だけど。
オオクニヌシさんは神代から現代まで、生まれ変わったツクヨミをずっと護ってた。生まれ変わった私をずっと護ってた。私の親戚になり、アパートの隣室に住み、世界の変化がなければ、たぶん目の前に現れず、物陰でずっと護ってた。
そうか。母さんもずっと護ってたんだ。
島根旅行の帰路で告白を受けた。今のツクヨミのままでいい、と言われた。ツクヨミの記憶のないままでいい、と言われた。ツクヨミの記憶のない私は、ずっとツクヨミでありつづける。ツクヨミの記憶のない私を、オオクニヌシさんはずっと護りつづける。
ヘビーな告白を私は受け入れられず、曖昧なままになってる。
ツクヨミの記憶のない私に言われても、応えられない。オオクニヌシさんは昔のツクヨミを、今も慕ってる。今のツクヨミ(私)でない。やっぱ記憶を戻してほしいよね。
「転生モノは楽しいと読者は気軽にいうけれど、意外と主役は気重。作者が書かないだけ。書いたらチョーつまらなくなるから」
台所に立つ割烹着姿のオオクニヌシさんを見ながら独り言ちる。
オオクニヌシさんは、私がよそよそしくなり、気づかい、あまり接しないでくれる。ふたりきりにならないようしてくれる。
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