第二章

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 結界を破壊する為の作戦は、近日中実行されるとだけ告げられていた。  あちこちにザルンツベル軍の手の者を紛れ込ませはしたが、山地民による混乱を引き起こすにあたり、うまく事を運ぶまでどれほど時間が掛かるか正確な想定はできない。常にいつ何時事態が動くか警戒していなければならないのだ。  注意して過ごせば、山地民を巡って刻一刻と張り詰めていく空気に、その日がごく近くへと迫っていることは感じ取れた。 「…ぁあ……まったくおまえは最高だよ」  背後にいる男が、低く掠れた溜息とともに再び律動を再開する。それによって現実へと呼び戻されるように思考の嵌りから醒めた。  粘膜が擦れるたび、鋭い痛みと鈍い衝撃、気だるい快楽が体の自由を奪う。  湿った肌のぶつかり合う音は徐々に間隔を狭め、代わりにその大きさを増してゆく。  キルゴダで最初にユウハを犯したこの人間、ロウレンは、兵士としてはひどく優秀な男だった。  片手でユウハの両腕を拘束し、もう片方の手で右膝の裏を掴む。強制的にその脚を持ち上げられて差し出した場所へ、ロウレンは遠慮や気遣いの欠片もなく自らの怒張を突き立てた。それから容赦なく腰を振り続けている。  如何に非力な魔導士だとしても、ユウハとて無抵抗に性交を受け入れる訳ではない。故に大抵の兵は数人まとまって襲い掛かってくるのだが、この男に関してはたとえ1人だろうが抵抗してうまくいった試しがなかった。  熱く太い棒に腹の中を激しくかき回され、吐き気がこみ上げてくる。嬌声も発しようのないユウハの口から溢れるのは、空気を求めて乱れた呼吸のみだった。  そのままユウハは達した。僅かに体を痙攣させて、無理やり侵入している楔をまるで愛おしむかのように締めつけ、くわえ込む。  精を放たぬ絶頂は苦しいばかりだ。解放感などかけらもなく、ただ己の制御権をむしり取られるような感覚に黙って耐えるしかない。  もともと自分にまともな精神が備わっているのか定かではなかったが、いよいよ麻痺してきたらしい。屈辱も怒りも恐怖もなく、ただのっぺりと黒い水が体に満ちてゆく。  ロウレンが臓腑の内へ白濁を放ち、満足して性器を抜くまで、ずっとそうして立っていた。  ここで過ごした何ヶ月かのうちに、ユウハはあまり目立たぬ厠がある場所についてすっかり詳しくなっていた。  身体を清めるための水はいつでも自由に使えると限らない。その点、厠なら最低限洗浄することくらいであれば簡単にできる。  流水を桶ですくい、悪臭を放つ暗い穴の上で、隠すもののない肌の上へかけた。こればかりは何度繰り返しても自然と顔が歪む。  最悪だ。  女の性器とは違う。排泄器官を使って犯される以上、特に腹の調子を崩しているタイミングなどで来られると、事後はとにかく汚かった。  それなのにユウハを使う者たちは、たとえ自分の腹に便や血がつこうと大して気にしない。  血も臓物も撒き散らされた汚物も、戦場の兵士ならば確かに馴染み深いものではあるが、つくづく趣味の悪い下卑た連中だった。  もっとも彼らとユウハとでどれほど違うのかという話だが。  精液と排泄物と汗の醸し出す相乗効果には、慣れていても冗談抜きで吐く時がある。  戦場はこれより何倍もきつく、更に死臭や腐敗臭まで加わってくる。そんな場所を平然とした顔で歩けるというのに、おかしな話だ。  しまいには吐瀉物まで加わり、鼻に残る悪臭で胸が悪くなりながらも、ユウハは一応のところ汚れを全て落として厠から出た。  痛みと疲労で頭にも体にも力が入らなかった。  きっとこれから夕餉の時間だろう。だが当然食べる気になどなる筈もない。ずるずると身を引きずるようにして営舎へ向かう。  不快感が一定値を超えると、もう何もかもどうでもよくなる瞬間というのがくる。  騒がしい魔法士たちの陰を進む。どうにか自室の寝台までたどり着くと、意識を失うように倒れ込んだ。
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