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あなたを忘れない
紫苑の花言葉は、あなたを忘れてない。もう二度と会うことは叶わないけれど、あなたは永遠に私の胸の中で、生き続けることでしょう――――。
別れは突然すぎて、今はまだ、受け入れられずとも、時が何時しか悲しみを癒し、溶かしてくれる。
そう信じて、痛む心の見えない刺を、私は愛しさと想いて胸に抱く。
****
幼き日に、見た貴方の面影。
今でも脳裏に焼き付いて胸を焦がす。
真夏の暑い日差しの中で、あなたの微笑みは夏蜜柑のように、ほろ苦く、甘酸っぱで胸が弾けた―――――。
――柔かな温もり――
――小さな背中――
病院の消毒の匂い。
抱き締める腕に力はなく。
あなたは泣いていましたね。
最後の時まで、あなたは私の母であり
友であり。
そして、唯一の生きる証でした。
あなたは幼い、私を残し消えました。
また、あなたは私を一人残し永遠に会うことの出来ない世界へ旅立とうとするのですね――――。
なんて酷い人なのでしょう。
あなたは、いつも、いつも
私の心を踏みにじり
傷つけ、離れていく。
どんなに手を伸ばそうとも届かない。
埋まらない距離が歯痒くて。
「ごめんなさい」謝る言葉より
「ありがとう」の方が私は好きだ。
子は、親を選ぶ事が、出来ない。
あなたも私を生んだ事を、後悔なんてしないでほしい―――。
自信をもって、私の母であった事を胸に旅立ってほしい。
私は、あなたの最期を見届けます。
だから、あなたも最後の時は
幼き日に見た。
あの最高の笑顔で·····。
さらりと風に靡く、病室の花瓶の中に紫色の紫苑の花が咲き乱れ。
静かに眠る手を握り
あなたを想いて涙を流す。
――END――
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