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魔王生誕
今、巷では魔王が復活したって噂らしい。
大変だなぁ、なんてぼんやり思う。
そんなことより昨夜締め忘れたカーテンのせいで、窓から部屋いっぱいに入る朝日に叩き起こされた。
むくりと起き上がれば、よじよじとキングサイズのベッドから抜け出す。
向かった先は化粧台の前。ちょこんと座ると寝癖だらけのゴワついた、自身の赤髪をブラシで梳く。
銀属製で出来たブラシはゴキゴキと折れた。
やはり鋼製でなければ3日も持たないか、と自身の髪を恨めし気に見つめる月色の瞳が鏡越しに映った。
今世界各国の王様は勇者様探しに忙しいらしい。
お供であるお仲間の募集にも余念がない。
近々勇者パーティーが発足されて、その内魔王も倒されるだろう。
また、束の間の平和がやって来る。
だから待っていればそれでいい。私には関係ないことだ、と赤い髪束をひとつ摘まんでタメ息を吐いた。
ーートントン。
「お目覚めでしょうか?」
大袈裟なくらい大きな扉をノックする音の後、抑揚のない透き通った男性の声が語りかけてくる。
「どうぞ」と短く答えれば、長身のひょろっとした男が入って来た。
白銀のサラサラとした髪を後ろで一本に縛り、血の気のない肌。灰色の瞳は死んだ魚のような目で、目の下には赤黒い隈がある。
彼は黒のタキシードを着ているが、色が薄すぎてタキシードが浮いて見える。
例えるなら、そう。
幽霊って言葉が、よくお似合いだ。
幽霊は綺麗に一礼して見せると、顔を上げて紫にくすんだ唇を開いた。
「おはようございます。魔王様」
「いや…、辞めてくれない?その呼び方」
私は答えた。心底嫌そうに。
・・・・*
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