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「……え?」
「あなたももうわかってるみたいだけど、本当はあなたを――いいえ、もうそれはいいわ。気が変わったの。今は私も同じ気持ちよ。あなたのいない世界で生きていても仕方ないわ。言っておくけど、こう言えばあなたが考え直すなんてずるいことは考えてないわよ」
もちろんそれはわかっていた。僕は誰よりもキミを理解しているつもりだ。だから、彼女の申し出がどういう意味なのかも。
「……本気、なんだね?」
「もちろん。私がこんなものを持って生まれてきたことにも、意味があったんだわ」
全ては決まっていたことなのだろうか。後付けだと言ってしまえば、それまでかもしれない。だとしても、せめて僕たちだけは信じよう。僕たちが出会ったのは運命だ。そして、これは決して悲劇なんかじゃない。だって僕たちは今誰よりも幸福なのだから。
僕は彼女に寄り添い、そっと囁く。
「――――――」
「それって」
「キミの花言葉だよ」
それは、僕から彼女への、最後の愛の言葉になった。
「嬉しいわ。誰にも知られないのがもったいないくらいに素敵よ」
「誰にも知られなくていいんだ。これは世界でキミだけが知っていればいい」
僕はキミにそっと口づける。
経験したことのない甘美な蜜の味を感じ、底知れぬ幸福感が僕を満たした。
やがて、体全体が痺れてくるのを感じる。
僕は体が完全に麻痺してしまう前に、キミのすべてを口に含んだ。
――ずっと一緒よ
キミの声が僕の中で響いた。
夜が明け、世界が明るく輝き始める。僕は穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと目を閉じた。
僕たちに朝は来ない。
それでもいい。
僕たちはずっと一緒にいれるのだから。
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