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かつて━━━世界を統一しようとした王が居た。神々の暴虐に耐えかね、弱きもの達の為に拳を振り上げた者が居た。冥界、人界、天界の三界を征し、あらゆる魔の頂点に君臨した王の名は、『グランツ・レイ・ヴィエトル』。傲慢な神々を降し、神々が支配する神話の時代を終わらせ、世界に自由をもたらした魔王である。 「………………」 豪華絢爛な玉座の間にいるのは男一人。彼は一冊の本を黙って読み進めている。この男こそ、魔王グランツである。配下がこそこそと書いていた己の伝記を見つけ、時が来るまで読んでいたのだが………… 「随分と美化されすぎだろう」 別に弱きもの達の為に拳を振り上げた訳ではない。ただ単に、自分が生きるのに邪魔だと思ったのが神々だっただけだ。ほらよくあるだろう?工事をしたいのにそこにちょうど木が生い茂っていることが。そんな時は伐採する。それと同じだ。己が生まれた時に感じた息苦しさ。常に押さえ付けられている感覚が鬱陶しくて堪らなかった。だから文句を言いに行った。空間をねじ曲げ、次元の壁を引き裂いて天界に殴り込んだ。流石に若輩者だった自分では多勢に無勢。武装した天使と軍神武神戦神のトリプルゴッド相手に無様にも敗走した。この時は流石に若気の至りと言うか何も考えていなかったな。普通なら死ぬ所を運良く生き延びた我は、仲間を集めた。純粋にパワーがあるものは勿論として、知性に長ける者も多く仲間に引き入れた。力だけの集団ではそこらの獣と同じよ。知性ある生き物にはそれ相応の戦い方がある。最弱と呼ばれた種族でも役に立つ事がある。そんな訳で様々な種族を引き入れた結果、いつの間にか魔界を征服してしまっていた。忙しくも楽しい日々だった。寝る間も惜しんで、次はどうしようかと作戦を立てるのは本当に楽しかった。それでよく配下に叱られたものだ。 玉座の間が揺れる。近いところで起きた衝撃が伝わってきたのだろう。もうすぐか………と呟いて本を閉じる。まだ全体の三割程度しか読めてないのにな………と名残惜しく本を亜空間へ仕舞う。瞳を閉じれば、あの頃の思い出が流星の如く思い浮かんでくる。 「ああ、よき生であった」 玉座の間の扉が打ち破られる。入ってきたのは六人の男女。全員がそれぞれ伝説級の装備を手にしているが、中でも真ん中の男が手にしている剣はその中でも格が違った。あれは神々の力が込められた最強の武器。我を倒すためだけに与えられた物だろう。そして、そんな装備を持ったこやつらがここにたどり着いたと言うことは、我が臣下達は………逝ったか………。 我はもう一度勇者が持つ剣を注視する。アレに切られれば、不死身の我とて死ぬな。そう確信する。と言うかもし死ななくても、この城ごと消滅させようとか考えているだろう。 「お前が魔王だな」 真ん中の男が前に出てくる。一歩遅れて後ろの男女も着いてくる。勇者、女戦士、格闘家(男)、弓兵(男)、魔導師(女)、聖職者(男)か…………中々バランス重視なパーティだな。 「人の世の為に、お前を斬る」 「ククク、そうか、貴様は分かっているのだな。全て理解し承知の上で我を殺すと?」 「誰も理解なんてしてない。出来るはずが無い。お前を殺した所で何が残る?次は人間同士の争いが起きるだけだ」 そう、そうだ。我が三界を征した事によって、この世界にはハッキリとした主導者が居る。全てを決める王が居る。それを殺すのは、人のエゴだ。自分達が力を欲するが故に我を殺すと言う、醜いエゴでしかない。だが━━━━ 「それが人だ。意地汚く、貪欲に欲する。その結果、人はより良い未来を勝ち取るだろう。少なくとも、我はそう信じている」 「……………あなたには、何が見えているんです?」 何が………か 「何も見えてはいないさ。ただあるがままに、己が欲求に従っていつも動いてきた。そのはずなのに、いつの間にか後ろを着いてくる者が現れた。その者達が我に意地でもついてくると言うのなら、我も覚悟を決めねばならん。魔の究極とまで言われた我でも、護るべき者が出来れば自ずと力の使い方を変えるさ。故に、その問いに答えるならば、初めは自分自身の事を、後に仲間の事を、更に後には世界の事を、更に後には未来の事を、ヒトは成長するに連れて視野を広げていかねばならない。所詮は限界がある。神の視座であろうと、理解できぬものはある」 この会話を聞いている神々よ。貴様らが未だに理解できていないのは人そのものよ。いずれ人は貴様らの支配を自力で打ち破る。その時がきてせいぜい焦らぬことだ。 亜空間から一振の魔剣を取り出す。我が初めて魔界の奥底にあるダンジョンを攻略した時に手に入れた魔剣。あの勇者の剣にも負けず劣らずの力を持っている。 「だが安心しろ勇者よ。貴様は既に見えているよ。その叡智、我は認めよう。人でありながら我に比肩する叡智と、神々に認められし武勇をあわせ持つ貴様ならば、我以上に世界をより良く出来るはずだ」 「俺は………!」 「未だ覚悟が足りんか?良かろう。我もただで死ぬつもりは無い。貴様が不甲斐ないままなら、貴様を殺し、更に完璧な世界を目指すだけだ」 互いに剣を構える。勇者の仲間達も武器を構える。今まで自制してきたが、この時だけは解放しよう。さぁ、互いに譲れぬものの戦いだ。世界は魔のものか、それとも人の手に渡るか。いざ尋常に━━━ 「勝負ッ!!!!」 互いにぶつかり合う戦闘は、正に神話の1ページ。魔導師の魔法が、女戦士の戦斧が、格闘家の拳が、弓兵の矢が、それぞれ渾身の力を込めた一撃だった。我が臣下が破れるのも納得できるものだった。だが━━━━ 「足りんな」 剣を使わず女戦士と格闘家を床に叩き付け元の位置へと投げ飛ばす。魔導師と弓兵には先程の魔導師が放った魔法の十倍以上の火力で魔法を放つ。咄嗟にバリアを張ったのか死んでは居ないようだが、衝撃で部屋の外まで飛ばされた。 すかさず勇者が斬りかかる。上段より速度と重さが乗った一撃は、先程の女戦士と格闘家とは段違いだった。我が愛剣で受け止めるが、重さで床が放射状にひび割れる。 「流石だ。だが、まだ足りん!」 純粋な身体能力で勇者を押し返す。弾き返された勇者は後方へと下がり体勢を立て直す。 「みんな大丈夫?」 「おーなんとかな。つーかいってぇ……!どんな体してんだ?殴った拳が割れそうだぜ」 「私の斧でも壊せる気がしなかったわ。四天王相手でも十分にダメージを与えられたのに……」 「……………マリー、二人の状態は?」 聖職者は吹き飛ばされた魔導師と弓兵を看ていた。 「なんとか死んではいませんが、ダメージが大きすぎます。復帰は無理でしょう……」 「そうか……」 ただ一度の戦闘でパーティーの仲間二人が戦線離脱。さらには残ったメンバーも実力の差をハッキリと分からされた。ここで怖じ気づくようではまだまだだ。さあ見せてみろよ英雄。まだこんなもんじゃないだろう?勇者に向けて威圧する。早く、早く見せてみろと。 「みんな………俺に任せてくれないかな。あの魔王だけは、俺が一人で倒さないといけない」 「それは!」 「ごめん。我が儘なのはわかってる。でも、頼むよ」 「はぁ、しょうがねぇ。諦めろよクレア。こいつがこう言い出したら聞かねぇのは分かってんだろ?」 「~~~~~ッ!!分かってるわよ!もう!その代わり、絶対勝ちなさい!」 「あぁ、勿論だ。マリー、俺にありったけの強化魔法を掛けてくれないかな?」 「は、はい!」 どうやら勇者一人で来るようだ。まぁ、その方が手間がかからず良いのだが。魔導師ではないから強化魔法も聖職者では質で劣るだろう。だが、それも掛けるのと掛けないのとでは差が出てくる。使えるものは使う。余計なプライドを持っている輩より百万倍マシだ。勝てなければ意味がない。それを勇者も分かっているのだろう。 「来るが良い。決着を着けよう」 頃合いを見計らって話し掛ける。出来る魔王は空気も読めるのだ。 「━━ああ」 互いに距離を詰める。しかし初めはゆっくりと歩きながらだ。そして十歩目で、互いに力強く駆け出した。両者の剣が互いにぶつかり合い。火花を散らす。弾かれ、ぶつかり、また弾き返す。一歩も譲らず何手でも打ち合う。 「ふっ!」 「はあぁぁ!」 純粋な剣技のみでの勝負。人と魔族とでは身体能力にも差があるというのに、勇者はそんなマイナスを技術力でカバーしている。成る程。見事な剣技だ。人の身でよくぞここまで磨き上げた。その剣技は神域に達する。だが、そちらが剣技で神域に達したのなら、こちらは魔法で神域に達していると言おう。どのような魔法使いも我に並び立つものはいない。 どれだけの時間をこの勇者と斬り合っていた。 「おおおおおおお!!」 「あああああああ!!」 互いに体力は底知れず。間合いを取れば魔法で牽制し合う。その魔法も食らえば一撃必殺。フェイントや搦め手などもいつの間にか使わぬようになっていた。狙うは相手の急所。互いに必殺の応酬だ。食らえば死ぬ。だと言うのに、互いに回避と防御は最小限で、ダメージは常に食らい合う。神域に達した者同士、どんな攻撃も必ず相手に当たるようなものばかりだ。物理法則など既に意味はなく、術理など己が技で書き換えてしまえ。我は魔王であるが故に納得するが、こやつは人間だ。もはや人間かどうかも怪しい怪物だがな。 だが、いつまでも続くと思っていたこの戦いにもついに終わりが訪れる。勇者の剣は刹那の内に我が利き手を切り落とし、防御魔法ごと我が心臓を貫いた。 「ガフッ…………見事だ……」 「…………勝ったのか……?」 「あぁ、お前の勝ちだ。そして、我の負けでもある」 勇者が我の心臓から剣を引き抜く。支えを失ったかのように我の身体は崩れ落ちる。いやぁ……我が使える防御魔法の中でも最強だったんだが…………容易く破られてしまったわ。 「グフッガッハアッ……ハァ………ククックハハハハハハハハハ!!!!見事見事。見事なり!勇者よ、万夫不倒の魔王を倒した男よ」 まだだ………まだ、ここで終わらない。こやつに、約束させるまでは……!! 力を振り絞り、落ちた剣を支えにして立ち上がる。 「ッ!まだ立ち上がるの!?」 「いや、流石にもう戦える力は残ってないはずだ………だよな?」 「ククッ、安心するがよい。我はじきに死ぬ。そやつの持つ剣………聖剣とでも呼ぶかの。聖剣は我に対して必殺の効果を持つ。確実に死に至らしめるほどのな」 なんとか歩きながら玉座にたどり着いた。 「ふぅ~。よっこいせ。ああ~疲れた」 「………余裕そうだな」 「フフ、そう見えるか?だがもう死に体、目も霞んできた。今の内に言いたいことだけを言っておく。勇者よ…………魔族を頼む」 例え人間のエゴによって我を殺したとしても、力無き民は殺さないでくれ。全ての罪も業も悪も我が背負おう。だからどうか、民だけは………… 我ながら情けない。血の気の多い昔の我なら激怒していた。勝てば良かったのだ!!とな。だが結果は我の敗北だ。情けないが、勇者にこう頼むしかない。 勇者は聖剣を鞘に納め、しっかりと我の目を見つめる。 「安心してくれ。あなたの民には危害を加えない。例えそれが王であっても許さない」 「それは…………神であってもか?」 「勿論だ」 ━━━━嗚呼、安心した。こやつなら本当に任せられそうだ。 「フフッ、クハハハハッ!?ゴフッゴホッ…………ハァ。では、任せたぞ。勇者━━━」 そう言えば、我こやつの名前知らんな。 「貴様、名前は何と言う?」 「………レオナルド。姓は無い。ただのレオナルドだ。友人からはレオって呼ばれてる」 「ククッ、レオか………ではそう呼ばせてもらおう」 「おい。はぁ。あんたは?」 「んぅ?我のことは知っているだろ?今さら」 「良いんだよ。あんたの口から聞きたい。聡明で、強く、気高き王よ」 クハハハハ。何だそれは。だが…………うむ。そう言うのなら 「我が名はグランツ・レイ・ヴィエトル。三界を征した魔王である」 「グランツ・レイ・ヴィエトル…………じゃあな魔王グランツ、ゆっくり休め」 「フフッ、こやつめ………だが、ああ、そうさせてもらう」 もう………身体が重い。意識が保てん。 やり残した事は無いが………これから先が心配だ。まぁ、勇者が……レオがなんとかしてくれるだろう。もし悪いことになっているなら再び甦ってやるわ。ハハハハハ━━━━━━━━ ━━━━━こうして、世界最強だった魔王グランツは死に、魔界は混乱の渦に飲み込まれる事となったが、勇者レオナルドはいち早く魔族の混乱を納め、人界との和平交渉を進めた。その後、人界と魔界は互いに交流し、数百年立つ頃には魔族と人間の壁は無いも同然だった。 さて、ここでめでたしめでたしとはいかない。この物語は次がある。それは、魔王グランツが別の世界で転生した事によって始まる。輪廻は廻る。因果とは不思議なものだ。魔王グランツ。あなたの物語はまだ終わってはない。むしろ、ある意味ここからがスタートなのだ。 それでは魔王グランツ暫しの間、平和な世界を堪能したまえ。 「(な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?)」 ━━次回!死んだと思ったら赤ん坊になっていた。お楽しみに!
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