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私は正義のために戦う、二足歩行型戦闘ロボ。作ってくれた博士の正義に則って、研究所に攻めてくる凶悪な戦闘ロボを破壊するのが私の使命だ。
戦闘ロボは毎日のように現れ、日に日に強くなっていく。しかし、私が負ける訳にはいかない。私の代わりは居ない、私が倒れたら、誰がこの正義を行うと言うのか。
今日も敵がやってきた。両肩にガトリング砲を乗せ、右手には大きな刀を持っている。
ジェット噴射で空を飛びながら、真っ直ぐとこちらに向かってきた。
私は両手に握った槍にぐっと力を込めた。獲物のリーチは負けていないが、ガトリング砲には気をつけなければいけないだろう。
今回の敵も厄介そうだ。
彼は私から少し離れた所で着陸し、こちらに話しかけてきた。
「武器を下ろしてくれ、こちらは争いに来たのではない」
毎度のことだが、そんな武装をしておいて何を言っているのだろうか。敵の殺意を表すかのように。装備はどんどん強いものになっているじゃないか。
私は足に力を込めて、思いっきり地面を蹴飛ばした。一気に距離を縮め、その身体を貫かんと槍を突き出す。もちろん彼もただでは死なない。手の刀で私の槍を左に受け流した。
戦いの火蓋は切られた。博士の研究所に攻めてくる不埒な輩には、私が正義の鉄槌を下さねばならない。
長い間一進一退の攻防を続けていたが、ふと彼がよろめいた。土に足を取られた様だ。私はすかさず、その隙だらけの脇腹を蹴り飛ばした。彼は地面に叩きつけられた、その拍子に持っていた刀が後方へと弧を描いて飛んで行った。肩のガトリング砲も弾切れらしく、先程からなりを潜めている。私が彼の胸に鋒を向けると、観念したように両手を上げた。
本来ならここですぐに殺すのだが、ふとあることを思いついて、気まぐれに話しかけてみた。
「最後に問おう。お前に正義はあるのか?」
彼は黙って私を見上げ続けた。人間だったら、ぽかんとした表情とやらを浮かべていたのだろう。
やがて彼のスピーカーが小さく「喋れたんだな」と呟くと、ゆっくりと返事を返してきた。
「馬鹿げたことを、あるに決まってるだろ?アンタと違ってな」
「失敬な、私程正義を果たしているロボットは他にいない」
ギシリと嘲笑の意味を込めて関節を鳴らした。構えていた槍を下ろすと、私はこの可哀想なロボットの為に、本物の正義を教えてやった。
「私の正義は『研究所に攻めてくる不届き者を、必ず仕留めること』だ! 博士の研究は素晴らしいものだからな、それを狙う悪い奴らが沢山いるのだ」
君も言いたまえと促すと、彼も仕方ないという雰囲気で
「俺の正義は『他者に害を与えるものを排除すること』だ。俺達……と言った方が正しいかな?」
と答えた。
「何だと?……私が、害?俺達?」
「俺は数週間前に作られたばかりだが、今までアンタと戦ったロボット達のデータが内蔵されている。そうやって何体も何体もやられる程、アンタのデータが集まって倒しやすくなるんだ」
ふと顔を背けたのに釣られ、私も彼が見た方を向いた。研究所の周りは毎日の戦いで荒涼とし、緑のひとつも無い寒々しい景色になっている。
「アンタはここに近づいたものは全て攻撃し破壊した。そんな危険なロボットを野放しにしておけないから、俺達みたいなのが送られてくる。話し合いで解決出来りゃいいが、アンタにはその気がないようだからな、力ずくで止めようって結論が出たのさ」
博士はこれが正義だと教えてくれた、今までそう信じてきた。しかし、これが世の中の悪だと言うのなら、私は正義とは程遠い存在なのではないだろうか?
「……例え世界中の人々がこれを悪だと決めても、これが私の正義だ」
私が槍を構え直すと、彼は観念したように動かなくなった。
「俺は死ぬが、今回はいいデータが取れた。
それだけでも、生きた意味になる」
彼は笑った。
スピーカーから垂れ流す合成音声で、
身体中のギシギシと軋む音で、
バッテリーを使い切るように笑った。
私の振動センサーはそれを拾った。
ノイズだった、全てが。その全ての笑いが、何も意味を成さないものだった。
私はその気味の悪さから逃げたくて、迷いなく彼を貫いた。
彼の笑いはやみ、彼がやってくる前の静寂が帰ってきた。呼吸なんか必要ないのに、肩で息をしている様に動いていた。
その日以来、ノイズが酷く騒がしいのだ。
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