思い出

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そこから、猫は生きるためにたぶん自力で家族とコミュニケーションをとってわたしの家族の仲間入りをした。 気が付けば猫は半家猫となって家族全員に可愛がられる生活をしていた。 自由に外へ出る事もできて、家の中でごはんと睡眠をとる生活。 暖かいシーズンになるとたまにわたしの靴の中にネズミやモグラのお土産を入れたりしてわたしを怖がらせたりした。 わたしや弟妹が山に遊びにいくときはなにげについてきて遠くから見守ってくれていたりもしたけど、6歳か7歳かそのくらいになったとき、猫は急にいなくなってしまった。毎日夕方になると猫は帰ってきて、玄関でにゃーと中に入れてと帰ってくるのに、ここ数日、姿すら見せない。 山の方や海の方で大きな声でわたしが、ごはんだよー帰っておいでー!と叫ぶ毎日が始まった。どのくらい経っただろう。真冬だったと思う。もう何か月か経っていて猫はどこかで死んでしまったかもしれないと家族が口にしていた。 寒い寒いある日の夕方。玄関の向こうに白い猫の姿を見た。 にゃーと鳴いてる声は元気がなくてか弱い気がしたし、脂肪がたくさんついていた体はほっそりとしているように感じた。 すりガラスになっている戸をあけると、間違いなく家の猫。だけど、どうしたのかその姿の変わりよう。猫はほっそりどころではないくらいにげっそりとして今にも倒れ込んでいまいそうなくらいふらふらになって抱き上げると体重も軽くなって今にも死んでしまうのではないかと、ニャーとなく声もかすれてか弱くなって変わり果ててしまっていた。 何度見しただろうか。本当に変わり果ててしまって。 よく帰ってきたね、よく帰ってきたね。と撫でては泣いた。 発作のように呼吸が荒くなるときがあって、その時は撫でては大丈夫だよ大丈夫だよとゆっくりとさすりながら、呼吸の仕方を教えながら。 後日、隣人宅のおじいさんが倉庫にこの猫を閉じ込めたとのうわさを耳にしてわたしは怒り狂いそうだったけど、それよりも頑張って帰ってきたけど発作のように呼吸がしにくくなる猫の体調が心配で隣人宅への怒りどころではなかった。 母は、猫はこの先、長くないかもしれないね。と言った。
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