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始まりの出会い
目の色を変えてという表現をご存知だろうか。
僕がこの慣用句を知ったのは、ずいぶん昔の話である。確か、物ごごろがついた頃に母から教えてもらったのだ。
なぜ、そんな小さい子が普段使わない様な慣用句を覚える機会があったのかというと、僕は昔から本当に人の眼の色が変わるところを何度も何度も見てきたからだった。
「お母さん、今日は眼の色が赤いね」
小さい頃の僕がそういうと、母は慌てて鏡を覗き込んだ。
「やだ、ユウくん嘘付かないで」
そういうと、母の眼はより一層赤みを帯びた。
「目の色が変わったね」
僕がそういうと、母は驚いた様な表情を浮かべて
『どこでそんな表現覚えたの?』
といった。その瞳の色は、燃える様な赤の色から淡い紫へと変化していった。僕がその慣用句の意味を知ったのと同時に、僕の目にしかこの現象は捉えられていないと自覚したのだ。
そして、小学校に上がった頃、瞳の色とその人の感情が関連性を持っている事に気が付いた。僕が見てきた中で、確実なものは、怒りは赤、喜びは黄色、悲しみは青、愛情は桃色、憎しみは黒、不安は紫などである。
もちろん、その他にも様々な色の瞳を見てきた。だが、まだまだどのような感情を表すのかわかっていない色がたくさんある。きっと大人になるにつれ、わかるのだろう。
僕がその人に会ったのは、最近の話である。
瞳の色と、その人の表情が一致していない事は多々あったが、その人の場合はそれがしょっちゅう起こっていたので、嫌でも印象に残ってしまったのだ。
他にも頼まれ事をされているのに関わらず、友人から頼み事をされた際には、良いよと朗らかな表情で引き受けながら、その瞳の色は青紫を帯びていた。
僕はこの時、青紫色は困惑を表す色だと気が付いたのだった。
それからというもの、何となく彼女を目で追う様になった。彼女はやはり、悲しい時ほどよく笑い、怒っている時ほど落ち着いた態度を取っていた。大抵の人は、時たまこの様な行動を取るが、ここまで徹底して本心を隠す人は珍しい。
僕はいつか、彼女の化けの皮を剥がしてやろうと、人知れずに躍起していた。
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