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「どうかしました?」
私の視線に気づいた彼はキョトンとした表情で私を見る。
「ううん、何でもない。そう言えば名前聞いてもいい?私は…一花」
下の名前しか教えなかったけど、変に思われなかったかな。今日だけしか会わないんだし、フルネームを教えなくてもいいかなと思って…
「…僕は祐希です。一花さんはよくここに来るんですか?」
「ここに来たのは初めて…実は今日彼氏に振られちゃって、その憂さ晴らしに来たの」
エヘヘッと苦笑いしながら話す。祐希さんは触れてはいけない話に触れてしまってどうしよう、と困った表情になる。
「あっ…と、すみません。話に触れない方が良さそうですね」
「いえ、逆に私の愚痴を聞いてほしいんだけど、ダメかな?」
「それは全然大丈夫ですよ。では場所を変えましょうか」
そう言って祐希さんがベンチから立ち上がったので私も立ち上がり一緒に外へ出た。確かにバッティングセンターでする話ではないけど、かと言ってどこで話をしようか悩む。
「取り敢えず駅に向かって歩きましょうか。電車、乗りますよね?」
「う、うん」
駅に向かって歩く。祐希さんはさり気なく私を守るように外側を歩き、歩くスピードも私に合わせてくれている。
祐希さんを疑う訳ではないけど、話をするなら部屋に来ない?とかホテルに連れ込まれたら…とか考えてしまった自分が恥ずかしい。
本当に祐希さんが良い人で良かった。
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