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手本
文字を書く度、あの時よりも下手になっていないか不安になる。
「綺麗な字だよねぇ」
隣の席に座った彼女がしみじみと言ったひとことに、飛び上がりそうになった。
今まで字を褒められたことなど殆どなかった。癖の強い字だという自覚もあった。
それを彼女が、綺麗だと言ってくれた。
「……そんなことないよ」
咄嗟にそんな一言しか返せず、会話はそこで途切れたが、心の中では彼女の言葉をいつまでも反芻していた。
癖が弱まってはいないか。強くなってはいないか。バランスが崩れてはいないか。
あれ以来、私の字の手本はあの時の自分の字になった。
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