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第一話 プロローグ
「はぁー。今月も売上ゼロか……」
そんな事を言いながらため息をついたオレは、一条ハルト。いわゆるホストって言うやつだ。
はるばる南は九州から夢を見て、上京して来たのが一年前。中学を卒業してすぐの事だった。
ある日、家のパソコンでネットサーフィンをしていたオレはーー。
『今なら体験入店一万円！ 稼げる、目指せ、夢のハーレムライフ！ もちろん、ルックスに自身が無くても大丈夫！ 今なら、入店希望者全員採用！』
とか言う、広告を見たのが始まり。
それから、かれこれ一年の月日が立ってしまった。
だから、今は十六歳。高校二年生の代だ。
もちろん、法律的にも十八歳未満はホストクラブでは働けないのだが。
それはオレのパソコンスキルで、ちょいちょいとして身分証明書を偽造してやった。
あー、これは犯罪だから良い子はマネしちゃダメだぞ？
「ホストになったら、人生変わると思ったんだけどな？」
そう言ってまだ暗い、都会の夜空を見上げる。
今の時刻は、午前五時。
ホストクラブ自体は風営法の関係で、午前一時には店が閉まる。
だが、売れないホストはそこから後片付けや掃除、ミーティングや雑用をやられなければならない。
そしてオレは、いわゆる売れないホスト。その中でも、最底辺に属するホストだ。
それもそのはず、オレの見た目はホストと言うには残念過ぎる。
顔もだし、体型だって十代にしてはぼよぼよのお腹だし、良いところは何もない。
そして、いつも言われるのはーー。
「話しも上手いし、気も聞く。テーブルマナーやシャンパンコールも完璧！ だけど、顔と体型がね……。これで顔がもう少し良ければ、一流ホストにでもなれたのに」
と言う哀れみの言葉ばかり。
もちろんオレにお金があって、二十歳を過ぎていれば整形だって出来たし、少しは違っていたかもしれないな。
そして、そんな事を考えながら歩いていると。
フラフラになった女性が、道路の真ん中をのらりくらりと歩いていた。
ホストクラブ帰りだろうか？ この町ではよく見る光景だ。
だが、その時！！
ーープップー！！！
道路の向こうから、猛スピードで走って来るトラックがいたのだ。
「危ないっ！！」
そうやって叫んだオレはーー。
いつの間にか走り出し、道路の真ん中まで行って女性を突き飛ばしていた。
あぁ、これはいわゆる職業病って言うやつだ。
常に女性を喜ばして、楽しませる。
自分を磨いて、誰もが羨む位に格好をつける。
そんなホストを、本気でやってたオレだからこそ。
変な所で、『格好』をつけてしまったのだ。
そして、トラックが顔前まで迫りーー。
走馬灯が見えた。
学校でイジメられて不登校になった事。
進学しないことで、両親とケンカして逃げるように上京した事。
人生を変えるためにホストになったのに、全然売れなかった事。
ごめんねーー。
ありがとう……。
オレは次に生まれ変わったら、イケメンに生まれて人生をやり直すんだ。
今度があれば……。
今度こそ上手くやってやるんだ。
今度こそオレは、『夢の美少女ハーレム生活』を送ってやるんだーー。
キッーーーーッ！！
「危ねーだろうがっ！ 死にてぇのかーっ！？」
あろうことか、トラックはオレの眼前で止まった。
あれ？
あれーっ？
おかしくない？
普通ならここで、カッコよく死んで異世界転生するよね？
この展開は、オレの脳内リハーサルと違うんですけど。
「あっ！ ぼ、ボウズっ！ 危ねーっ！ 後ろだっ！」
そして、そんなトラック運転手の声で振り向くと。
タイミングを間違えたかの様に、フラフラになりながら走る自転車が猛スピードでこちらに突っ込んで来て、トラックの間に挟まれてオレは潰れて死んだ。
そう、間違えて潰したニキビの様にね。
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