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◇ 「…それから、二人は姫の部屋の隠し通路を使って城の外へと逃げ延びた。その後、その城がどうなったかは誰にもわからない。噂には、王様が再婚して別の子供を作ったとも言われているし、そのまま滅んだとも言われている。けれど、二人にはそんなことは関係なかった。彼らは街から街へ。二人で世界を渡り歩いた。…何年も何年も」  気が付くと、青年の話は終わっていた。  いつの間にか集まった人々は徐々に帰り始め、感動した何人かの人々が語り部を囲み、それでもまだ椅子に座っていた少女は自分がいつの間にか泣いていたことに気づいた。  それもそのはず。  終始穏やかな顔で語っていた語り部の心の声は、目が合うたび、すべて彼女に筒抜けていたからだ。 ◇  広くて快適な客室で、語り部の青年が心地よさそうにベッドに突っ伏した。 「ああ…ッ、すべての街がこんな街だったらいいのに…ッ!!」  先ほどまでと打って変わって子供のような表情でふかふかの枕を抱きしめている青年に、背後から冷たい声がした。 「下心なく歓迎してくれた街は半分くらいだった気がするが?」  肩あたりまでしかない金髪の髪を乾かしながら向かいのベッドに座った女性に、青年が枕に顔をうずめたまま軽く笑った。 「あれだろ? いつものパターンでいくとこのまま何事もなく街を出られるのが半分。アイフェが何故か魔物退治に駆り出されるパターンが二割、俺が街に居残るように説得されるパターンが一割、一服盛られて身ぐるみ剥がれそうになるパターンが一割」  大抵の場合、語り部であろうとタダ(・・)で歓迎してもらえるということはなかなかないのが現状だ。楽しそうに過去を語る青年に綺麗な顔で苦笑しながらアイフェが天井を仰ぐ。
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