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◇
もっぱら王の悩みは年頃になる一人娘のことだった。
何しろ齢十六にもなろうというのに馬に乗るわ訓練場で騎士たちと剣の仕合いばかりしているわ女性は立ち入り禁止の書庫で学問書や哲学書を読み漁るわで、婚約破棄回数は国の歴史上類を見ないほどになっていた。
その上今日は語り部が国に来ているというのに、時間を過ぎても広間に顔すら出さない。
国王が苛々しながら待つ中、城には既に多くの人が町から集まっていた。
「アイフェ様…ッ、本当によろしいのですか? そろそろお時間が……」
「ん? 今日何かあったか?」
金属音が断続的に響く訓練場で、細い金糸の髪を乱暴に後頭部で一本に括りあげて死んだ母親譲りの美貌を汗と泥に汚しながら、アイフェと呼ばれた少女は低い声で返した。
手にしていた剣を収めるその仕草も板についたもので、新進気鋭の少年騎士候補だと言われればどこからどう見てもそうとしか見えないいで立ち。…それでも彼女は一応姫だった。
「今日は…その、昨日街に着いた語り部が城で…」
たどたどしく騎士が口にした瞬間、アイフェが「ああ」と、どうでもよさそうに遮る。
「忘れたことにしとけばいい。あんな眠くなるだけの下らん行事、私の代わりにポップでも立てて置けばいいだろう」
「よくないですよッ!! 私まで叱られますッ!! 大体なんですかポップってッ!!」
怒鳴っている騎士を思いっきり笑い飛ばしてアイフェがゆっくりと剣を抜く。
「いいから、もう一戦付き合え。ちょうどノってきたところだ」
綺麗な顔で好戦的に微笑まれて仕方なく騎士が息をつく。
「もう…知りませんよ?」
軽く金属がこすれる音を立てて騎士が剣を抜いた瞬間だった。
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