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 なんとなく話の展開が見えてきて少年が先読みする。 「言っとくけど俺はここでクイズ係に転職する気はないからな」 「そのくらいわかってるッ! ……私の遊び相手でどうだ?」 「同じじゃねぇかッ!! ったく。だったらお前が着いてきたらいいだろ? お前、剣の腕はいいみたいだし、あの人、用心棒なら何人いてもいいらしいからさ」  語り部が旅をする道中を守る同伴者は用心棒と呼ばれていた。昨日この城を訪れた語り部は珍しく用心棒を二人連れていたらしい。もっとも一人は目の前のこの少年だという噂だから、実質用心棒一人と用心棒見習い一人と言ったところなのかもしれない。  軽く息をついて少年は自分で訊いておいて自分で続けた。 「…なんてな。姫さんが旅に出るなんて無理だろ? 俺だってそうだよ。城で生活するなんて無理だ。そういうもんなんだよ。人にはそれぞれ居場所ってのがあるんだ」 「居場所? この城がか?」 「…………」  一瞬にして険しい顔になった相手を見て、少年はしまったと思った。彼女が城内で浮いた存在であることくらい、今日一日だけでも充分すぎるほどにわかっていたはずなのに。 「…どれほど生き方を選びたくても、この場所で女には選択肢がない。生まれた時からすべての人生が決まった物語のように予定されている」 「予定?」 「住む場所もすることも結婚する相手も、決まった世界の中で変わらない日常を死ぬまで何十年も生き続けるんだ。城に住んで窮屈な服を着て毎日予定通りの場所に座って笑って飯を食って決まった相手と踊る。それをゼンマイで出来たおもちゃのように動かなくなるまで繰り返す。こんなくだらない人生、語り部の記憶にさえ残す価値さえない」  一気にまくしたてる少女の言葉を、少年は瞬き一つせずに真顔で聞いていた。 「で?」 「何?」 「お前は一体誰の記憶に残りたいんだよ。当たり前だろ? 語り部が語るのは生きた人間だ。ゼンマイのおもちゃは語らない」 「だろうな…」  自嘲気味に吐き捨てたアイフェに少年は透明な声で続けた。 「諦めて自分に素直に生きろよ。この城でだってお前なら何か変えられるだろ?」  初めて会った時とは別人のようなきっぱりと言い切る声に、アイフェが初めて見せる顔で苦く笑った。 「…知ったような口を利く」  少年は、満足そうに笑った。
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