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◇  少女と別れて、提供されていた寝室に少年が戻ると、何故か先に眠っているはずの二人の姿がなかった。荷物はそのまま残っている。先程まで二人がいたかのように飲みかけのカップや荷物から出した服が転がっていた。  少年が不思議に思いながら部屋を出ようとして、暗闇の廊下を走る足音を聞いてそのまますぐにドアを閉める。音が部屋の前を通り過ぎるのを待ってから、彼はそっとドアを開けた。  息を殺して少年がついて行った先は城の一室だった。 「しっかしまだ子どもなのにねぇ…ひっどい事考えるよねぇ」  明らかに楽しむようなリズミカルな男の声が扉の向こうから聞こえてくる。  暗い部屋の中から小さなランプの灯りだけが扉から細く漏れていた。 「……ッ」  少年が扉を薄く開けて覗くと、ちょうどランプの灯りに照らされて大きな鉈が鈍く閃いた。  瞬間、勢いよく振り下ろされた鉈の下で鈍い音がして、少年の顔に生暖かいものがほんのわずかに飛んで付着する。壁に勢いよく真黒な何かが迸った。  目を見開いたまま、少年は身動きが取れなかった。  床に横たわる『それ』は、今日までずっと一緒にいた育ての親の片方だった。 「……ぁ…あ……ッ」  ひきつった声を上げながら思いっきり腰を抜かして廊下を這うように後ずさる。  何が起こったのかわからなかった。理解はしていた。逃げなくてはまずいと。 「んー? ああ、君は来なくて良かったのに。見ちゃったね」  真っ赤に塗装された顔で、廊下の窓から差し込む月光に照らされて、青白い顔で男は笑っていた。幅の狭い廊下でそれ以上後ずさることもできずに壁に背をくっつけて乾いた声を漏らし続けている少年に、あっさりと男は鉈を振りかざす。  少年が思いっきり目をつぶった瞬間だった。 「…ッ、逃げろ…ッ!!」  先ほどまで床に倒れていた男性が血まみれのまま背後から殺人鬼を押さえつけていた。 「……ぁ…うぁ……」  意味を理解して一気に涙が溢れて身体に感覚が戻る。 「うああぁぁぁぁあああああああああああッ!!」  訳の分からない奇声を上げながら立って脱兎のごとく廊下を疾走する。  助けてくれた男は、もう一人の親。少年はその二人に育てられた。
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