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 いつも少年と語り部を守ってくれたその男は、しかし今回は少年を守り切れなかったらしい。 「…ッ!!」  突然肩に何かがぶつかって地面に転がる。一瞬石でもぶつけられたのかと思ったが、燃えるように肩が熱い。もう片方の手を伸ばすと、そこには何かが刺さっていた。  転がって悲鳴を上げている少年にナイフを投げた女が笑いながら寄ってくる。 「ごめんね、これもお仕事なの」  女が笑いながら取り出した別のナイフで少年にとどめを刺そうとした時だった。  甲高い金属音を立てて女のナイフが手元からはじけ飛ぶ。 「……あらあら、面倒が省けたかしら」 「どこの国の回し者だッ?! どうやってここまで…」  少年の目の前で剣を構えて語るアイフェの背後から先程の男の声がした。 「ここまで入ったかって? わかるでしょ。そんなの、入れてもらったに決まってるじゃない?」 「……?」  目の前の女と背後の男を警戒しながら少年を守るように壁を背後に下がるアイフェに男は楽しそうに笑った。 「そもそもいくらお城の王族専用エリアだからってこれだけ騒いで誰も来ないって変だと思わない?」 「…………」  黙っているアイフェに今度は女が笑う。 「あら、もしかしてお姫様はなぞなぞが苦手かしら? じゃあ、問題。私たちを雇ってあなたと語り部さんたちを殺そうとしたのは一体誰でしょう?」 「おいおい。可哀想だろ? こーんな子供にそんなこと訊いちゃったら」  痛みをこらえながら必死に少年がアイフェの背後で立ち上がる。  男の持つ明かりに仄かに照らされて、剣を握るアイフェの手が震えていた。 「……ぁ…あ…」  昔から小言は言われたが、邪魔だと言われたことは一度もなかった。  子どもの頃は、それなりに可愛がってくれてはいた。  最近はほとんど顔を合わせてはいなかったが、それでも信じたくはなかったのだ。  血の繋がりがこんなにも脆いものだったなんて。 「…時間切れ。正解は…君のお父様でした~」  何かが、壊れる音がした。 「あらら、言っちゃったね~。でも仕方ないよね。いらないんだって。結婚しない娘なんて邪魔なだけだってさ。ていよく罪をかぶってくれそうな外部の人間が来るのを待ってたんだってね。悪い事考えるよね~」  丁寧に説明してくれる男の声も、耳に入らない。 「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」  思いっきり叫んだのは…呆然と立ち尽くすアイフェの背後にいた少年だった。  全力で叫びながら肩に刺さっていたナイフを自分で引き抜いて思いっきりぶん投げる。  少年の投げたそれは唯一の灯りだった男のランプを破壊し、廊下を暗黒に包んだ。
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