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諦める
箱の中のチェーンソーを取り出し、そっと左足にあてた。
このままスイッチをいれれば、俺の左足はなくなる。
もう、戻ることはない。
どれだけ時が経っても、左足が再生することはない。
自分の左足を、自分で切断する。
痛みも想像できない事だった。
今、この部屋から出るためだけに一生足をなくして生きていくことになるのか……。
どれだけの人に迷惑がかかるのだろう。
きっと、ここから出れたとしても、左足のない俺を見たら家族は悲しむだろう。
それも、俺が自分で選んだと知ったら特に。
「あと3分です」
何日も俺が戻らなかったら、家族が警察に連絡するだろう。
わざわざこんなことしなくても、すぐに助けはくる。
おとなしく救助を待っていよう。
「あと2分です」
カウントダウンも終わりに近づいてきた。
と思ったが、まだ続きがあった。
「時間内に鍵を取り出せなかった場合、あなたは死にますので」
淡々と伝えられた事実を理解するのに時間がかかった。
だが理解すると同時に、俺はチェーンソーのスイッチをいれていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
ガリゴリと音をたてながら、真っ白な床がきれいな赤へと染まっていく。
あと1分です、という声は耳に入ってこなかった。
ガリガリガリガリ
ガリガリガリ
ガリガリ
ぐちゃぐちゃになった足の中に、何か光るものを見つ「残念でした」けた俺が最期に見えたのは、血だらけのチェーンソーと左足、そして
全身真っ赤な俺の体だった。
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