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切断
箱の中のチェーンソーを取り出し、そっと左足にあてた。
このままスイッチをいれれば、俺の左足はなくなる。
もう戻ることはない。
たとえ鍵を手に入れたとしても、このドアが外と繋がっているかは分からない。
そもそも、本当に鍵が入っているのかも。
だが、今はこれにかけるしかないのだ。
色々悩んでも、俺にはこの選択肢しかない。
俺は覚悟を決め、ゆっくりとスイッチをいれた。
「……くっ…。がぁ……。うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
ガリゴリと音をたてながら切断されていく自分の足をしっかりと見つめ、手がぶれないように押していく。
あと2分です、という声が聞こえたとき、ぐちゃっとしている足の切断面に、鍵らしきものが埋め込まれているのが見えた。
見失わないように、丁寧にそれを取り出す。
「時間内に鍵___」
無機質な声が途中で切れ、何も聞こえなくなった。
俺は切り離された足をその場に置き、必死にドアまで這っていった。
意識が朦朧としてきた中、限界まで手を伸ばして鍵をさす。
カチリ、と音がしたと同時に俺は倒れた。
遠くから、「生還おめでとうございます」という無機質な声が聞こえてきたが_____。
目が覚めて最初に見たのは真っ白な天井だった。
拓希、と呼ぶ声の方を向くと、母さんがいた。
目に涙を浮かべて震えている母さんの横には、優しそうに笑っている医者がいる。
「残念ながら左足を失ってしまいましたが、あの事故で生きていらっしゃるのは奇跡と言えるでしょう」
医者が言った言葉で全てを思い出した俺は、
あの時、左足を犠牲にして良かった、と涙を溢した。
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