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Opning
キラキラ光る朝靄の光が、赤い髪を、白い肌を飾った。
深海のような静寂の森で、振り返る少年は、一瞬少女なのかと思った。
あまりの美しさに、息が止まる。
心臓が止まる。
世界が止まる。
そのあどけなさの残る輪郭には、けれど何処か鬱蒼とした影が落ち。
何も映さぬ瞳が、ガラス玉のような瞳が、哀しくも完璧に美しく。
白いワンピースから覗く白すぎる脚。それは何故か、童話の人魚姫を連想させた。
『地上にあがった人魚には、言葉を奪われ、幸福を奪われ、破滅の運命が待っている。』
頭の中に、そんな言葉が浮かんだ。
『無垢』そのもののような、それゆえ、人ではないような。
そんな危うさと儚さを孕んだ白い顔。
一瞬だけ此方を向いて、可憐な笑みを向ける。
美しく、可愛らしい笑み。
そうして、誰かに呼ばれ、パタパタと駆けていく。
森の中、消えていく。
海の、泡のように。
何処か夢うつつのような、朝靄の森の人魚、その顔が。
何時までも、何時までも繰り返し、さざ波のように俺の世界を侵し、蝕んだ。
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