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Scene06
キラキラ、朝靄の光が、赤い髪に、肌に降る。
美しい少年が、パタパタと駆けてゆく。
これは何時の景色だ。
ああ、そうか。七砂に初めて会った時の。
まるで童話の人魚姫が、目の前に現れたように、俺は感じて。
余りに無垢な存在。
白い。
美しい。
視界に映る穢れ無き者、その存在に手を伸ばした。
その先に広がるのは、光の海。
「……なな、さ?」
伸ばした指の先、触れる温かい感触、段々はっきりする輪郭に、俺はぼやけた声を投げた。
リアルな感触に、自分が眠ってしまっていたことに気付く。
「紫乃様……」
気づけば、泣きそうな顔で、七砂が覗きこんでいる。
だから、安心させようとその赤い髪を撫でた。
目の前の美貌、その顔は、もう少年ではなく、青年だった。
中性的な、男とも、女ともつかない美貌。
蠱惑的なその危うい美しさに、俺は目を細めた。
「よかった。死んで、しまったのかと思った。僕を助けて、貴方は、酷い目にあったのかと。」
「ばかだな、七砂。アイツが俺を殺すわけがない。これでも、唯一人の息子で、唯一人の肉親だ。」
「よかった……よかった……。紫乃様が目を覚ましてくれて。よかった。」
七砂は、そんな風に呟くと、綺麗な涙をぽろぽろと零す。
その様が哀れで、また愛おしくて。
俺は七砂の透明な雫を、唇で吸って拭った。
「大丈夫か?あんな岩場で、怪我はしてない?」
顔を覗き込んでいうと、七砂が駄々っ子のように言う。
「大丈夫じゃない。全然、大丈夫じゃない。」
そんな言い方に、まさか怪我でもしたのか、それとも、怒っているのか。
不安になった俺が口を開こうとしたら、その唇を。
七砂の赤い、艶やかな唇が、塞ぐ。
キスされたのだと気づくのに、暫くかかった。
自分は簡単に七砂に口づけたけれど、まさか七砂の方からキスをしてくるなど、思ってなくて。
信じられなくて。
瞳を、見開いた。
混乱の中、ゆっくり離れていく七砂が、呟いた。
小さい声で、けれど確かに。
「キスは、好きな人にするんでしょう?
紫乃様が僕を好きかはわからないけど、僕は。
さっき、キスをもらって、温かい体温に包まれて。
思ったんだ。強く。貴方が好きだって。
愚かな恋だと、笑う?気の迷いだと、笑う?でも、僕は紫乃様が好き。
だから、キスしたんだ。」
必死に、縋るように言う七砂が、限りなく愛おしくて。
胸の奥に熱いうねりが込み上げて。
気づけば唇を奪っていた。
今度は俺のほうから。
そうして草の上、押し倒す身体。
白い肌に、人魚の心に、触れた。
瞬間、絶望の世界は色を変える。
もう、離さない。
二度と、誰にも触れさせない。
愛している。
俺の。
俺の、人魚。
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