【一】突然すぎる婚約話

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 なんてけなげなのだろう。  私のために努力を重ねていてくれたことを知ったら、今後もたくさん可愛がりたくなるというもの。  むしろ今すぐ抱き上げて、力いっぱいハグしたいくらいだ。  しかし、今ここでしたら、参拝者の方々から完全に頭のおかしい人扱いされるだろう。  それだけなら多少は慣れているからまだいい。  うっかり危険人物とみなされ、通報されたらやっかいだ。  数年前、とある一軒家の庭に生える背の高い木に絡まってしまった白い布のあやかし”一反木綿(いったんもめん)”を助け出そうと塀によじ上り手を伸ばしていたら、家主に不法侵入者と勘違いされて通報された経験がある。  正直に『一反木綿が絡まってしまって』と説明しても理解してもらえず、当時はまだ中学生だったこともあり、厳重注意で終わったのだが、あと三カ月ほどで二十歳を迎える今、同じ過ちは繰り返したくはない。  ぶつぶつと独り言の多い人、というレベルに止めておくのが無難だ。  ハグをするのは宿についてからにしよう。 「ありがとう豆ちゃん、あとでお礼させてね」 「お礼なんて! でも、もしいただけるなら、み◯りのたぬきが食べたいです!」 「出た、共食い!」という突っ込みは、寸でのところで飲み込んだ。
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