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裾にピンクのレースがあしらわれた白いワンピース。袖の部分が絞ってあって、フリルがついているのがお気に入り。そのワンピースに先週買った淡いピンクのお花のカチューシャをつけて、鏡の前でくるりと一回転。うん、今日も可愛い! 丈の短い控えめなレースの靴下もこのワンピースによく合っているし、縁に小花柄の布が付いたカゴバックも相性ばっちり! 鏡の中の自分に微笑みかけると、彼女は軽い足取りで家を出た。
太陽がご機嫌に光を振りまいている。そんなお天気はわくわくするけれど、日焼けにはしっかりと気を付けないと。ワンピースの袖と同じように、フリルの付いた白い日傘で紫外線をブロック。可愛い洋服に可愛い靴、可愛い日傘。歩いているだけで楽しくなる。
電車の中は涼しく、人もまばらで心地よかった。窓の外を流れる景色を眺めながら今日の買い物のシミュレーションをする。
まずはお気に入りのブランドのお店に行って新作のポーチをチェック。その後は手芸屋さんに行ってリメイク用のレースを買おう。そうしたら位置的には本屋さんで毎月買っているロリータ雑誌のチェックかな。いや、やっぱり雑誌は重たいからちょっと遠回りにはなるけれど、最後にしよう。
シミュレーションが最後まで終わらないうちに、電車のアナウンスは目的の駅名を告げた。
また日傘の影に守られながら、ショッピングモールを目指す。すれ違う買い物帰りの親子、カップル、おひとり様。どれも真新しい商品の入った袋を腕から提げて、幸せそうに歩いているように彼女には見える。そう、やっぱりお買い物は人を幸せにするのよね。可愛いものは特に!
目的のショッピングモールに到着すると、まずは計画通り四階にあるお気に入りのロリータブランドの店へ。ネットで見た通り、新作のポーチは彼女の好みドストライクだった。やっぱりピンクかな~。でも白も可愛い。あ、でもたまにはこういう淡い水色なんていうのもいいよね……。しばらく棚の前で腕を組んで悩んだが、結局ピンクを手に取ってかごに入れた。
ほかにもヘアアクセサリーや靴下を数点かごに入れる。もうすっかり顔なじみとなったレジのお姉さんと二言三言会話を交わし、店を後にする。
一番混んでいる時間帯は外してきたはずだが、やはり日曜日のショッピングモールは賑わっている。屋内ステージで子供向けのショーもやっているらしく、賑やかな音楽に合わせた子供たちの楽しそうな声援が遠くで聞こえる。そんな雑音も彼女にとっては彼女の買い物を盛り上げるBGMに聴こえた。
鼻歌を歌いながら次の店を目指す。可愛らしいくまのマスコットに数種類のレース。ついでにリボンや生地も調達した。
ここでちょっと遅めのおやつの時間。幾分人のはけたカフェに入ると、生クリームのたっぷり乗ったパンケーキを注文した。実際に運ばれてきたパンケーキはきらきらとしたフルーツにふわふわの生地、綺麗にかたどられた生クリームが写真よりもたっぷりと乗っていて、想像以上だった。もちろんSNSへの投稿も忘れない。
おなかが満たされたところで後半戦。
可愛らしいストラップの付いた赤い革靴。ぺろぺろキャンディの形をしたリップクリーム。淡いピンクの総レースのキャミソール。
幸せのたくさん詰まった袋を提げて、最後に四階へ戻って雑誌を忘れずに購入すると、彼女はショッピングモールを後にした。
荷物も多いので帰りはカボチャの馬車と心の中で呼んでいるタクシーに乗車した。
ガチャリと部屋のドアを開ける。そこには『可愛い』がぎっしりと詰まっている。ほとんどがピンクや白のフリルやレースをモチーフとしたものだ。
今日新しくその仲間入りを果たす子たちを袋から出していく。出していく度、少しずつ、心が暗くなる。沈む。霞む。
嘘、こんなに可愛いものに囲まれているのだもの。私は幸せ。そう歌うように言いながら、綺麗な包装をはがしていく。
先ほど買ったくまにこれまた先ほど買ったレースのリボンを括り付けた。両の掌に乗せたそのくまと視線を合わせる。
どうしたら、そんな風に可愛くなれる?
部屋を見渡す。ピンクのハート形の時計が控えめに時を刻んでいる以外は物音がせず、ひっそりとしている。
彼女はため息をつくとくまを棚の上に飾り、鏡台に向かった。
毎週欠かさず活けている、ピンク色のリシアンサス。フリルが可愛らしく、愛らしい。花言葉は「優美」。まさに彼女の理想像。
まだ枯れているとは言い難いその花を、彼女はゴミ箱へ放ると、新しいピンク色のリシアンサスを活けた。
そう。決して枯れてはいけないの。いつだって新しくて可愛くいなくっちゃ。そう自分に言い聞かせると部屋の中にある雑貨や服を先ほどリシアンサスを入れたゴミ箱へ次々と入れていった。
またお部屋が少し寂しくなっちゃった。彼女はさっきよりもすっきりとした、でもまだまだ彼女好みのもので溢れている部屋を見て短くため息をついた。
……まあいっか。また来週、可愛いものを買いに行きましょう。
そう呟くと、彼女は先ほどまで彼女の『可愛い』の一部だったものがたくさん入った袋を玄関の端に置き、ベッドに横になった。
天井からはカラフルなパステル色のお星さまのオーナメントが吊るされている。そんなお星さまに明日も可愛くいられるよう、願いを込めると彼女はゆっくりと大きな目を閉じた。
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