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エバがようやく現実を受け止め、自傷行為を抑えるようになってから1週間が経った。
「お嬢様、おはようございます。朝食はいかがですか?」
「その名前で呼ばないで」と目を覚ますたびに叫んで暴れるエバを気遣い、侍女は『リリス』という名前を出さないようにしていた。
「いらない……」
エバはずっと食事を拒み続けていた。
侍女は変わらない返答に肩を落とし、近くのテーブルに朝食がのったトレーを置いた。
皿の代わりに『経口栄養剤』が入った瓶を手に取る。
「お口をお開けください」
エバは横に寝転がったまま、素直に口を少し開いた。
拒んでも無理やり魔法で口を開けられることはわかっていたので、抵抗はすでに諦めている。
「失礼いたします」
侍女はエバの枕元で前かがみになり、魔法で瓶の中の液体をエバの口の中へ流し込んだ。
「口を閉じていただいて構いません」
侍女はエバににこりと笑いかけた。
エバはそんな侍女を虚ろな視界に入れる。
——随分幼い子ね。10代前半くらいかな。
「ありがとう。あなた……名前は?」
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