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エバは初めて侍女に関心を示し、話しかけた。
迷惑しかかけていないことは自覚していたので、せめて礼は告げておこう、という気になっていた。
侍女は両手で口を押さえ、涙を目に浮かべた。
エバはその反応に戸惑う。
「私は、お嬢様専属の侍女アリスと申します。お優しい言葉を頂き、感激しております!」
初めて礼を言われたことや、エバがようやく自分から声を出すようになったことにアリスは感激していた。
アリスはリリスに仕えて2週間しか経っていなかったが、気が短いリリスからは叱責されてばかりだったのでなおさらだ。
あまりにも嬉しそうにするアリスの様子に、エバは目を細める。
「アリスは何歳なの?」
「13歳です」
「仕事はここが初めて?」
「そうでございます。魔法が使えたおかげで、運良くジョーゼルカ家に従事させてもらうことになりました」
目をキラキラさせて答えるアリスを見て、純粋で可愛い子だな、とエバは思った。
「そう……魔法が使えるの。……こんな私に従事させて悪いわね」
この世界で魔法が使える者は希少なため、侍女として働かせるのは惜しい、とエバは思っていた。
「そんな……お気になさらないでください! あの後では……私ができることはこれくらいですから……」
エバは会話をしていくうちにようやく頭が回るようになり、聞いておかなければならないことを思いついた。
「今は、いつなの?」
「お昼の12時くらいでございます」
「何年、何月、何日?」
エバは弱々しい声で質問を続ける。
「歴3025年6月12日でございます」
それを聞いたエバは、ゆっくり目を瞑る。
今日はエバが死んでからちょうど5年だった。
そして、アダムがリリスと結婚した日であり、エバの誕生日でもあった。
辛い過去の記憶が頭の中を駆け巡り、エバの目から涙がこぼれ落ちる。
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