32人が本棚に入れています
本棚に追加
エバの異変に気付いたアリスは、さっとサイドテーブルに手を伸ばし、精神安定のお香を焚き始める。
「温かいハーブティーはいかがですか?」
「……お願い」
エバは涙を拭きながらそう言った。
アリスの優しく柔らかい雰囲気とさりげない気遣いのおかげで、エバの冷え切った心は少しだけ温まる。
「今日はとてもいい天気ですよ。テラスでご昼食はいかがですか?」
アリスはそう言いながら、体を起こしたエバにティーカップを手渡した。
「食欲はないけど……。少しだけ外の空気に触れてもいいかな」
前向きな言葉を聞いたアリスの顔は、パッと明るくなる。
「では、後ほどご用意いたしますね」
「ありがとう」
「お礼など……。私にはもったいないお言葉です」
アリスは顔を赤くし、満面の笑みを浮かべる。
その反応が可笑しくて、可愛くて、エバは表情を緩めた。
「そういえば、この怪我……何が原因なの? 私、何も覚えていないの」
エバは記憶を失ったふりをして、事情を聞いてみた。
ベッド近くの窓を開けていたアリスは、その質問を聞いた途端、体をビクつかせて固まる。
「……あの……私の口からは申し上げにくいのですが……」
アリスは少しうつむき加減で口ごもる。
「気にしないで、大丈夫」
「あの……」
アリスは顔を強張らせていた。
「大丈夫だよ。覚悟はしてる。どうせ、いつかは知ることになるんだから」
その言葉を聞いて、アリスは意を決して口を開いた。
「では……。1週間前の晩のことです。お嬢様はお1人でお出かけになっていたのですが、その時に……何者かに襲われたようで……」
エバは軽く頷く。
それが悪魔の生贄と関係しているのだろう、とエバは思った。
「それ以上はいいよ。辛い思いをさせてごめんね」
「いいえ……」
アリスは悲しい表情を浮かべる。
「アリス、もう少し質問してもいいかな? 別の質問だから」
「はい」
「アダムは元気?」
アリスの表情は再び強張った。
最初のコメントを投稿しよう!