5 過去1

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5 過去1

 エバの問いかけにアリスはなかなか答えられず、しばらくの間があった。  アリスは少し口を震わせながら話し始める。 「あの……私はこのお屋敷に来てからまだ日が浅いのです。そのため、アダム様の状況を全く把握できていません。……申し訳ありません」  アリスは深々と頭を下げた。  これは話せなかったという理由もあるが、嘘をついてしまったことへの謝罪でもあった。  リリスとアダムの夫婦生活については、当然、アリスは執事長から聞かされていた。  特にリリスの事件後、アダムが一度も見舞いに来ていないことは、口が裂けても言えなかった。 「謝らなくていいよ。気を使わせてごめんね。アリス、正直にいうと……私、その事件の後の記憶しかないの。自分が誰なのかも、わからなくなってるの。でも、アダムの存在だけは覚えてる——」  アリスはエバの発言にショックを受け、口を両手で押さえる。 「——何もかも忘れてしまったの……。だから、過去の情報を集めてくれない? 特に、過去5年分がほしいかな」  エバはこの体で生き続けることにまだ躊躇っていたが、最初で最後のチャンスであることは理解していた。  アダムともう一度結ばれることが最大の望みならば、耐えなければならない——そう自分に言い聞かせる。 『この先どうするのか?』——それを見極めるためにも、エバには情報が必要だ。 「かしこまりました。少しお時間をいただいても?」 「いいよ。でも、情報は包み隠さずね」 「はい……」  アリスの顔色はすぐれなかった。
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