7 過去3

1/6
前へ
/268ページ
次へ

7 過去3

 アダムの記憶喪失について詳細を得られなかったエバは、呼び鈴をならしてアリスを呼び出した。 「失礼いたします」 「アリス、呼び出してごめんなさい」 「とんでもございません。お嬢様のお役に立てることが、私の喜びでございますので」  あまりにも低姿勢すぎるアリスにエバは苦笑する。  平民出身のエバには慣れない習慣だ。 「それで、呼び出した理由なんだけど……。アダムのことを聞きたくて」 「どういった内容でしょうか?」 「アダムが一部の記憶を喪失している、という情報を得たの。詳細を知らないかなと思って……」 「そのことでしたら……」  アリスは少し言いにくそうな顔つきで話し始めた。 「私は原因を存じ上げませんが……、エバ・シャーリーという方の名前を出すと、必ず精神異常の発作や嘔吐などの症状が出てしまうようです。このお屋敷や職場の魔法学院では、その方の名前は禁句になっております」 「そう……」  エバはショックを受け、しばらく無言になった。 「あの……、先ほど執事長から伺ったのですが、本日はアダム様が夕食に顔を出されるそうです——」 「——本当に!?」 「はい」 「私も同席できる?」 「もちろんでございます。お嬢様とアダム様の結婚記念祝いの食事会ですから。準備をしておきますね!」  アリスは喜んでいたが、エバの思いは複雑だった。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加