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『ヒヒヒヒヒッ。もう逃げらんねーよ』
声の主の顔が霧の中から現れた。
口からはみ出る長いキバ、何もかも吸い込んでしまいそうな真っ赤な三つ目、霧よりも漆黒の皮膚、エバの体よりも大きな顔。
それは、巨大な悪魔だった。
エバはこれ以上なくらいに、震え上がる。
『ヒヒヒヒッ。お前、あんな酷い死に方してよー。散々だったな』
——そのとおり……。
『まあ、あんな女に目をつけられたのが運の尽きだったな』
——そうかもしれない。でも、どうすればよかったの……?
エバは微笑みかけるアダム——元婚約者の顔を思い出す。
憎しみで満たされていても、アダムへの愛情は変わらない。
想いが募り、胸が張り裂けそうだ。
「アダム……」
『その男にも原因があるんじゃねーのか?』
「——ないです! アダムは……抵抗さえできなかったんです……。悪いのはすべてあの女です! あの女がなにもかもめちゃくちゃに……」
悪魔の目は弓なりになった。
『ヒヒヒヒッ。いいぜ、その憎悪が堪らないぜ。気に入った。お前の願いを叶えてやる』
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