小蝿の晴天

10/19
前へ
/31ページ
次へ
うちの工場のキャブレター班は3班に分かれて稼働していた。 自分はC班に所属し、高菜さんはB班の班長をしている。年齢は入社12年と言っていたから、現在は高専卒業後で32、33歳ということになる。 自分は群馬の高校を出て新卒で入り、やっと5年目になっていた。 高菜さんと親しい間柄ではなかったが、この頃、飲みの誘いによく声がかかるようになった。B班は既婚者が多い上に、高菜さんを警戒して飲みには行かないと聞いたことがある。差し詰め、誰も行かないから手当たり次第に声を掛けているのだろう。 自分も行きたいはないが、先輩の誘いを断りづらくしていたのを見抜かれてしまった。 「じゃあ、19時に杉田駅でな」 「あ、あ、いえ。今回は」と躊躇した。 「良太。頼むよ、当分さ、間あけるから今回だけな」 ーー悪い人ではない。ただ必要以上に人なつこいところがあるのと、飲みだしたら長い。 1軒目は杉田駅の近くのチェーン店の居酒屋で軽く1時間を過ごした。 時刻は20時20〜30分だと思う。 急に高菜さんが飲みながら思い立ち、港南台駅の近くに知り合いの店があるから行かないかと言ってきた。 杉田から港南台は路線が違う電車を乗り継ぐが、さほど時間がかかる訳ではない。 30、40分も移動すれば到着した。 高菜さんの知り合いの店ならば、用事があると上手く抜け出せるのではとふと思い、高菜さんの提案に乗った。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加