小蝿の晴天

11/19
前へ
/31ページ
次へ
港南台駅に到着したのは、21時を10分くらいを過ぎていた頃だと思う。 乗り継ぎが上手く、さほど時間がかからずに移動してきた。到着する頃に高菜さんが、えらくご機嫌だったのを覚えている。 駅前から日野に向かい坂を下った。5分ほど歩いただろうか、車道沿いにあるスナックに高菜さんが入っていく。 店の名は[ステラ]と書いてあったと思う。店の前で一瞬、立ち尽くしたが店の中から高菜さんがドアを開き、手招きをしていたので急いで入った。中は5人も横並びで座れば一杯のカウンターと、4人掛けのソファーがあるテーブルが一つの狭い店だった。 「高菜さん、スナックですか」 「ああ、こうゆう店に来たことないのか」 「ないですよ。僕はまだ23ですから」 カウンターの奥から恰幅の良い女性が笑顔で迎える「孝彦ちゃん。久しぶり」と高菜さんの手を握った。 -高菜(たかなし)孝彦(たけひこ)。 「知り合いですか」 「ああ、中学の先輩。昔は美人で有名だったが酒とつまみが彼女を変えた」 「なに!タケヒコ!今日はもういいわ、帰んなさい。もう当分、来なくていいわ」 「冗談だよ、冗談。今も目を薄めりゃ、綺麗なまんま」と高菜さんは大笑いをする。 「あんた、いい加減に」とビール瓶を振り上げる女性に圧倒されたが、程なく落ち着き、カウンターに並びで高菜さんと座った。 何だかんだで、高菜さんが言葉を発する前に、ビールが二人の前に置かれた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加