小蝿の晴天

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「まぁ、ほっとしたよ」と高菜さんは帰って行った。また「ほら、いつか。良太がさ、高倉さんが綺麗って言っていただろう」と僕の為に高倉さんを、ここに連れてきみたいなことを高菜さんは小声で告げてきた。 良い人なのだが、何かとやっぱり厄介面があると改めて思った。 連れてこられた高倉さんも、自分の状況に気付きつつ、見世物的なマネキンを演じていた。 入院期間の2週間が過ぎ、退院日に伊澤さんが付き添うこととなった。報酬の100万に入院費を清算、母親設定を全うする為だという。周りには気付かれないのだろうか、似ても似つかぬ、この親子を。 幸いに荷物という荷物はなかった。所持金2000円前後の財布と携帯電話、入院中の下着が上下5組入った紙袋。入院前に着ていた服は、刺された際に出血から上下共に、着れる状態のものではなく、伊澤さんが森井から受け取り破棄したらしい。靴以外は新しい服を伊澤にネットから選ばされ、退院時に着ていた。 午後14時に退院となる。 伊澤さんの一歩後を歩き、看護ステーションで深々と頭を下げた。看護師の森井と目が合い感謝を込めて再度、頭を下げた。 病院の前から伊澤さんはタクシーを拾い杉田までと提案をされたが、一刻もはやく伊澤さんと離れたく提案を断った。伊澤さんから茶封筒に入った現金と伊澤の連絡先を記したメモを受けとる。 「明後日、連絡をしなさい。命令よ。とって食ったりはしないわ」 「分かりました。その時に話してもらえるんでしょうか?事故の詳細を」 「事故の詳細、そうね」と伊澤さんは駅前のロータリーからタクシーに乗り込み去って行った。 駅に入り改札を抜けた途端、両足の力が抜けた。やっとの思いでホームのベンチに腰掛ける。 ベンチに座り、杉田方面に向かう列車を3本も見送ってしまった。
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