小蝿の晴天

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白い布が何枚も、何枚も重なって身体に巻き付く。解いても、また巻きつき身体を締め付ける。手が動かせず、歯で布を剥がそうと食らいついた。 数人の笑い声が聞こえる。 ーーくそ。解けない。 笑い声が重なり、増えていく。 身体に巻きついた布は広がり、やがて四方八方にピンと張り詰めた。 そして、布が裂ける。 ーーその瞬間 身体が落下を始めた。 ーーは。 咄嗟に上体を起こした。 汗が頬から首すじに伝わる。 息が荒く、鼻で呼吸して整える。 「大丈夫ですか?」 右に振り向く。 また呼吸が荒くなった。 「あ、あ、あ」 「落ち着いて下さい。ここは病院です」 左右に素早く振り向き、周りを確認した。 6畳程の部屋にベットとソファ、ベット脇に棚のような物があり、横に白い上下の服を着た女性が立っていた。 「ここは、病院です。安心してください」 と女性は言った。 「病院・・・」 「何も、覚えてないですか?」 「ん、んん。いや・・・」記憶が断片的で繋がらない。パズルのピースをはめ込むみたいだった。 「お名前、分かりますか?ご自分の」 「名前・・・?ああ、しば、しばた、りょ・・・うた。そう、柴田良太。柴田良太です」 「柴田良太さんですね。ここは南部病院です。横浜市の・・・」 「ああ、病院?ここは病院ですか」 改めて、周りを見渡した。 「はい、そうです」
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