小蝿の晴天

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「イタ、痛い。イタタタ。いてぇ」 状態をベット上で起こす度に、全身に痛みが回る。 「身体を捻ると、痛みがあると思います。傷口が開いてしまうので、安静にして下さい」 「あ・・・あ。そう、そうですか」 右脇からキリキリと、痛みが身体全身にまわる。 「看護師の森井(もりい)と言います」 「あ、ああ。ありがとう・・・宜しくお願いします」 森井が動いた瞬間に香水では嗅げない、柔らかい匂いが、目の前に溢れた。 「痛みが我慢出来ない時は、これを押して下さい」とボタンを押す器具を手渡してきた。 「ありがとうございます」と退室する森井に感謝の言葉を投げかけた。 ボールペンと白いファイルを片手に、森井が病室から出て行く。 扉を開け、出て行くまで森井の背中から、目を反らせなかった。 やがて病室は何も無い空間になった。 ベットに仰向けになり、目を閉じる。 --刺された。 右脇からキリキリと痛みが今もある。 --誰に? 刺される程、恨みを買うことなんて・・・してはいない・・・と思う。 --物を盗られた? 金は2000円、そこそこしか持っていなかった。カード類もない。時計や金目の物なんて持っていない。既に電源の落ちてしまった携帯電話は高価な物だか、変わらずここにある。 --昨日は? 嫌な先輩・・・高梨さんに急に呼び出され、愚痴を聞き、夜中まで付き合わされた。挙句に酒代は割り勘で計算され、今までにない最悪の夜だった。記憶の中に高梨さんと別れて明け方の公園のベンチに座った記憶が蘇る。ベンチで目覚めた際の背中痛み、蝿が飛び交う快晴の空は決して忘れられない。 その後は、急に病院なんて・・・なんでだ。訳が分からない。
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