小蝿の晴天

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ーー何だか、さっぱりこの女性の言っていることがわからない。 真っさらの白い掛け布団の上に、一万円札の束が置かれる。 「今、払われても困るだろうけど。100万でどう?」 大胆にハダカの札束を女性は鞄から出した。 「100万円?」 「妥当よ。刺したといっても脇から後ろに貫通しただけ。出血の量が多けりゃ死ぬけど。刺したナイフは刺したままにしてあるわ」 ーー刺したままって 「刺したままの方が傷口、刺した内部が動かないから縫合がしやすく、出血も少なくなる。本当に殺したきゃ、引き抜き、数回刺して逃げるでしょ」 「何故?」 女性の言い分は理解できなかった。 「だから、事故なのよ。事故。たまたま、あそこにいた貴方が悪いのよ」 「はぁ、たまたまって。公園にただ酔って寝て、ベンチにいただけで刺されるなんて事があるのかよ・・・あ、イタタタ」 痛みと共に苛立ち、自然と語尾が強くなる。 「あるでしょ、ほら、現に今」 俺の顔に、女性が近づき顔を見据える。すぐさま近づかれる顔に目を背けた。鼻の奥にまとわりつく、ネットリとした香水の匂いがむせ返りそうになる。 「まぁ、考える余地は無いわ」 と女性は数歩後退りして、ベットから離れる。 「はぁ・・・なぜ。何がですか?」 「よく考えなさい。警察に言ってもいいわよ。でも、事故は多分、続くわ。貴方に限らず、貴方の周りにもね」 不気味に赤い唇の片方の口角が上がった。 ーーこれは脅しか。 「警察には、ありのまま話しなさい。貴方は何も分かってないのだから。ありのままが良いわ。それは返って私は疑われない。わかった?」 「は・・・はい」 段々と女性の顔を見れずに下を向く。 「私の事を黙っていればいいの。お金を受け取ってね。坊やーー」
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