小蝿の晴天

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「私は一旦、帰るから。警察には上手く言いなさい。もし、私が捕まれば不慮の事故は続く」と笑い、100万円の束を鞄にしまい気色悪い女性は病室を出て行った。 シーツと背中が張り付いている。 背中が湿っていた。 無意識に手に握っていた器具のボタンを押した。 「どうしました?」 頭上で、森井らしい声がした。 「すみません。汗を、汗をかき過ぎて」 「あ、分かりました。少しお時間を下さい」 相変わらずの透き通った声だった。 「はい」と素直に応えてる。 -10分後に森井が病室に入ってきた。 「痛みましたか?念のためにバイタルチェックをします。宜しいですか?」 「バイタル?」 聞いた事のない単語に困惑した。 「検温やら血圧測定を・・・するのをバイタルと言います」 「あ、はい。そうですか、どうぞ」 体温、血圧などを測定して、森井はその都度、ボールペンを走らせバインダーの用紙に書き込んでいるようだった。 「問題なさそうですね」と森井は笑った。 屈託のない笑顔が安心を誘う。 「あの、年配の女性・・・いや、母親は帰りましたか?」 「ああ、先程。深々と私達に頭を下げて帰って行きました。目には薄っすら涙を流して」 「ああ、そうですか」 涙を流す、どこまでも手が込んでいる。 「お母様の連絡先を頂きました。柴田さんは今は書くのが億劫だろうからと・・・優しい、お母さんですね」 森井の屈託のない笑顔が、あの女性の恐ろしさ感じた。 「ええ、まぁ」 気の無い返事は森井に失礼ではあった。 「では、軽く身体を拭かせ下さい」 「ああ、はい」 森井の慣れた手早く動く仕草に関心をした。5分くらいだろうか、不快な肌の感覚は消え去っていたのが救いだった。
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