7人が本棚に入れています
本棚に追加
「私は一旦、帰るから。警察には上手く言いなさい。もし、私が捕まれば不慮の事故は続く」と笑い、100万円の束を鞄にしまい気色悪い女性は病室を出て行った。
シーツと背中が張り付いている。
背中が湿っていた。
無意識に手に握っていた器具のボタンを押した。
「どうしました?」
頭上で、森井らしい声がした。
「すみません。汗を、汗をかき過ぎて」
「あ、分かりました。少しお時間を下さい」
相変わらずの透き通った声だった。
「はい」と素直に応えてる。
-10分後に森井が病室に入ってきた。
「痛みましたか?念のためにバイタルチェックをします。宜しいですか?」
「バイタル?」
聞いた事のない単語に困惑した。
「検温やら血圧測定を・・・するのをバイタルと言います」
「あ、はい。そうですか、どうぞ」
体温、血圧などを測定して、森井はその都度、ボールペンを走らせバインダーの用紙に書き込んでいるようだった。
「問題なさそうですね」と森井は笑った。
屈託のない笑顔が安心を誘う。
「あの、年配の女性・・・いや、母親は帰りましたか?」
「ああ、先程。深々と私達に頭を下げて帰って行きました。目には薄っすら涙を流して」
「ああ、そうですか」
涙を流す、どこまでも手が込んでいる。
「お母様の連絡先を頂きました。柴田さんは今は書くのが億劫だろうからと・・・優しい、お母さんですね」
森井の屈託のない笑顔が、あの女性の恐ろしさ感じた。
「ええ、まぁ」
気の無い返事は森井に失礼ではあった。
「では、軽く身体を拭かせ下さい」
「ああ、はい」
森井の慣れた手早く動く仕草に関心をした。5分くらいだろうか、不快な肌の感覚は消え去っていたのが救いだった。
最初のコメントを投稿しよう!