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「優しいお母さんの為にも、僕らは全力を尽くすよ。君の過去から、何かの手掛かりがあるかは今はまだ分からない。重要なのは、君の事件前の出来事だろう。事件の前日から詳しく話してくれないか?」
「あ、はい」
片瀬と加茂の顔付きが、一変したように感じた。相手の心の底に手を入れながら、変化を漏らさない。嘘なんてつこうものなら、心の底を強く握り潰されてしまいそうになる。
片瀬、加茂の目が見ている先は、自分の顔では無い。相手の暗い底の内側なのだろう。
ーー確か、そうだ。仕事が終わりに高菜さんに声を掛けられたのが、きっかけだった。
事件前日 17時30分頃。
「良太、良太。聞いてんのかよ」
高菜さんが大声を出しながら、工場の端から自分に近寄る。
「あ、あ、はい。なんすか?」
「またさ、うちの班の関谷がヘマしてさ。上からドヤされたよ」
ーー関谷・・・関谷?
去年、新卒で入って、高梨の班に配属された子だ。
「新人のミスは付き物ですよ。自分もやりましたし・・・」
自分の数々のミスを思い返して、高菜さんに伝えた。
「何だか、ムカつくんだよ。謝り方がさ」
「それは仕事と関係なくないですか?」
「イライラしてよ。今日、行かないか?」
これが高菜さんのいつものパターンだ。
「飲みっすか?」
「ああ」
「先月も行きましたし・・・今回は」
と顔を見ると、高菜さんの苛立ちが伝わった。
「そう言うなよ。イライラが収まんねぇんだよ」
ーーただ、飲みたいだけじゃないか。自分の班ではもう行く人がいないのだろう。
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