7人が本棚に入れています
本棚に追加
小蝿の晴天
目覚めはいつも、朝とは限らない。
自室ではない事も・・・。
肌触りの良い毛布にコーヒーの匂いがする朝が最高なら、汗臭い体臭を放つ身体に硬い木のベンチは最低か。
狭く、硬いベンチに横たわり真上から真っ正面に受ける日差しの中、黒いゴマのようなハエが飛び交う。
「なんだ、あれ?」
「たかし、見るんじゃないの」
ーー母親と子供。
すれ違い、遠ざかる後ろ姿の親子に舌打ちをした。
ズボンから携帯を取り、ディスプレイに目を移す。
ーー11時32分
ベンチから上体を起こした。
ーーくせぇ。咄嗟に右の二の腕を鼻に寄せ、匂いを嗅いでいた。
昼間前の日差しはキツく、額の汗が止まらない。拭う度に不快な思いが増し、苛立ち、膝が震えた。
このベンチから30メートル離れた先に、日影のベンチがあった。硬い木の上で数時間、横たわった代償は背中の痛みを伴う張り、腰に手を当て背筋を伸ばしてから、ベンチからベンチへ・・・移動した。
ポケットの携帯が震度をしている。
ズボンのポケットに手を入れ、携帯に指が触れ・・・る
サクッ
ん・・・あれ
脇腹が冷たくなる。
バタバタと複数の足音が遠のいて行った。
右脇に棒のような物が身体から突き出て、ドロっとした液体がベンチに垂れ流れた。
右手でベンチに触れる。
右手を目の前に・・・赤く染まった手。
まじまじとついた液体を見るなり、ベンチから前に倒れ込んだ。
微かに聞こえる。
女の叫び声と子供も泣き声・・・。
意識が狭くなり、縮み、飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!