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──約束から五年。
今日も、うちの庭にはパンジーの花が咲き誇っている。
手入れをしているのはもちろん……。
「カナメ! 見て! 明日から着ていくスーツ、どう?」
「似合うよ。可愛いね」
相変わらず褒め上手なカナメだ。
「可愛いより、社会人らしいとか言ってほしいんだけど」
「だって可愛いから。はい、社会人になる愛美にプレゼント」
そう言って、カナメは私にパンジーを一輪くれる。
「ありがとう、カナメ」
「ねえ、愛美。パンジーの花言葉、知ってる?」
「あ、それ気になって前に調べたことあるよ。確か、もの思い……だっけ?」
「うん。でもね、他にもあるんだ」
「どんな?」
問いかけると、カナメは優しく目を細めた。
「私を想って」
「え?」
「だから、パンジーの花言葉だよ。これを知ったから、育てることにしたんだ。愛美の為に」
私の名を口にしながら、カナメは笑みを深くする。
そして──
「僕に心をくれてありがとう」
願わくば、いつか君の心も僕にくれますように。
囁き、愛しむように私を見つめるカナメ。
微笑み見つめ返す私の瞳に写るのは、この世にたった一人の、カナメの姿。
fin
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