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君が教えてくれたもの
まどろみの中、誰かに呼ばれた気がした。
「愛美──」
聞き覚えのある声は、次第にクリアになっていく。
「起きて、愛美──」
この、声は。
「……要……?」
そうだ。この声は、要の声。
私の大好きな、幼馴染の……。
「愛美さん、起きて」
──ああ、違う。
これは、要の声じゃない。
要は私を、そんな風にかしこまって呼んだりしない。
「愛美さん、遅刻するよ」
「……起きるから、もう出て行って」
「おはよう、愛美さん。僕、朝食温めてくるね」
冷たい私の言葉にも特に動じず、彼はにっこりと微笑んで部屋から出て行った。
小さく息を吐いて、体を起こす。
ひんやりとした冷たい空気に体がブルリと震え、私は厚手のカーディガンを羽織ると暖房のスイッチを入れた。
机の上に飾られている写真立てに視線を向ける。
写っているのは、二年前の私と要。高校の入学式に撮った時のものだ。
少し癖のある明るい髪。双眸に少年のような無邪気さを滲ませ、こぼれるような笑顔でこちらを見る要は、私の幼馴染で初恋の人で……
一年半前に、この世を去った人。
そして──。
「愛美さん? ホットミルクとココア、どっちにするっておばさまが」
「……ミルク」
「伝えるね」
要と同じ姿、同じ声で私の名前を呼ぶ彼は、アンドロイドだ。
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